作家で東京都知事を務める石原慎太郎(いしはらしんたろう)(1932―2022)の長男・伸晃(のぶてる)氏は衆院議員(自民党幹事長代理)、次男・良純(よしずみ)氏は俳優、三男・宏高(ひろたか)氏は銀行員を経て衆院議員、四男・延啓(のぶひろ)氏は画家。多彩な4人の息子を育んだ石原一家の秘話を、次男・良純氏が明かす。
親父は赤ん坊をうまく抱けない。自分の子供を抱いた経験がないからだ。4人も子供がいるというのに、かなり怪しい父親だと思う。実際の子育てや教育は、母親に任せっきり。厳しく叱られたり小言を言われた記憶はほとんどなく、殴られた経験もない。勉強に関して口やかましく言われたことも一切なかった。それどころか、「学校の勉強なんてものは、しなくてもよろしい。学校に行かなくてもいい」と、よく言っていた。
子煩悩で、子供のことになると極度の心配性を発揮するのも親父の特徴だ。大地震がくるという噂が流れたときには、兄弟揃って学校を休ませた。大学時代、友達と一緒に行ったスキー場にわざわざ電話をかけてきて、「雪崩に気をつけろ。崖に近づくな」などと言われ、閉口したこともある。

それでも、僕が子供の頃、親父は怖い存在だった。とにかく目つきが怖い。昔の目つきは、今よりずっと鋭くて恐ろしかった。実家には、誕生日にケーキを囲んで、両親と息子4人が写っているような写真がたくさん残っている。だが、写真を見ても、その光景をはっきりと思い出すことはできない。理由は、親父が怖かったからだろう。「怖いものは、見ないことにしよう」という子供独特の防御本能が働き、記憶自体が残らなかったものと推察される。
昔も今も変わらないのは、石原家が石原慎太郎を中心に回っているということである。
夕食はうるさい子供たちとは別々にとる「二部制」になっていたし、朝、親父が寝ているときには騒いではいけないと、母親から口を酸っぱくして言い聞かされていた。また、母親は毎朝、ご飯、パン、そばという3種類の朝食を用意させられていた。親父がその日起きてから量った体重によって、何を食べるか決めていたからだ。
そんな両親が一昨年の11月30日、金婚式を迎えた。大事な日だからきちんとした会を開こうという話になり、幹事を引き受けた兄貴が某有名料亭の予約を取ってきた。それを聞いた親父が何と言ったか。普通の親ならば労(ねぎら)いもしくは感謝の言葉を口にするべき場面だ。いかにウチの親父といえども、「ああ、悪いな」ぐらいは言うだろう。ところが親父は開口一番、こう言い放ったのである。
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source : 文藝春秋 2007年2月号

