石原裕次郎 惜別の辞 たった一人の弟

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石原裕次郎は、強い絆で結ばれていた兄で作家の石原慎太郎(いしはらしんたろう)氏(1932―2022年)にしか見せない顔があったという。死去の直後に緊急増刊「さよなら石原裕次郎」へ発表された手記では、知られざる「タフガイ」の素顔が明かされている。

 私たちの世代、昭和ひと桁生まれは、戦争にこそ直接行きませんでしたが、戦後のこの40年の激しい変化を体験してきて、ある意味で波瀾の人生を送ってきているといえるでしょう。また、そろそろ人生に失恋しかけている世代でもあるし、功成り名を遂げつつある人にしても、もっと内面的なところでは、不如意なもの、あるいは人生の不条理をいろいろ味わって「自分の人生とは何だったのだろう」とふり返ってみる頃合いになっている世代だと思われます。

 こういう人たちが経てきた時代を、意識するしないにかかわらず、弟は代表してきました。

石原裕次郎 ©文藝春秋

 だから、弟に対する哀惜は、実は、人々の自分の青春というか、自分の今までの人生に対する一つの惜別といったものが重なって、より悲痛なものとなったのではないでしょうか。

 ただ、兄弟として、幼年からの思い出を通じて感じることは、弟の人生は、非常に祝福されながらも肉体的には呪われた人生だということです。いくつもの大怪我と大病、あんなに肉体の業苦を味わい続けさせられる人生というのは、ちょっと考えられません。

 子供の時から死ぬまで、ずっと病気で寝ていたというのと違って、その間、積極的に動き、明るく笑い、楽しみ、そしてまた挫折し、蘇り、ほんとうに飽きずによく闘って我慢してやってきたものだと思います。

 あれは私が小学校の5年、弟が3年の時でした。家の裏の空地で遊んでいる時に、誰かが、決して悪意ではなかったのですが、棒を投げたら弟の目に当たってしまった。これは子供心に怖い出来事で、一瞬目が潰れたのではないかと思いました。かろうじて目ははずれていて何でもなかったのですけど、弟が激しく「ワァーッ」と泣き出した時に、私はほんとうに体がしびれて、自分が消え入ってしまうぐらいのショックを受けました。

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source : 文藝春秋 1987年8月号

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