昭和35(1960)年、『夜と霧の隅で』で芥川賞を受賞。『楡家(にれけ)の人びと』、『どくとるマンボウ航海記』など数々の傑作を産んだ作家・北杜夫(きたもりお)(1927―2011)。その素顔を、サントリーの「窓際OL」として「週刊新潮」に軽妙なエッセイ「トホホな朝 ウフフの夜」を連載中(※2007年当時)の長女、斎藤由香(さいとうゆか)氏が綴る。
私はとにかくモノや言葉を知らない。四字熟語は大の苦手だし、「田中真紀子さんの更迭」を、「こうそう」と読んだり、「兎に角」を「うさぎにつの」、「日本刀」を「にほんがたな」などと誤読して笑われる。
先日、市ヶ谷にある防衛庁を見学した時、幹部の方に、「日本とアメリカの自衛隊とはどこが違うんですか?」と質問して周りは目がテンになった。
その翌日、ある作家の先生に上海蟹をご馳走になった。あまりの美味しさにどのように表現していいかわからなかった。頭の中で、「“美味しいですね”というのも普通でつまらんなあ」といろいろ考えて、「ことせんに触れる味わいですね」と慣れない言葉を使った。

すると、「サイトウさん、味わいにその表現はおかしいよ。それにそれは“きんせん”と読む。あなたはひょっとして帰国子女?」と聞かれたので、「オー、イエス、アイ、ドゥ!」と誤魔化した。
私が言葉を知らず、知識が無いのは父のせいである。父は一度も私に、「勉強しなさい」と言ったことがなかった。学生時代、期末試験のため、夜に勉強していると父が子供部屋に入ってきて言う。
「もう勉強はいいから早く寝なさい」
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source : 文藝春秋 2007年2月号

