飯山辰之介「SHIFT解剖 究極の人的資本経営」

楠木 建 一橋大学特任教授
エンタメ 読書

人材(だけ)で勝負する

 人材を資本と捉え、人材への投資を成長エンジンとする――今に始まった話ではない。古今東西、経営の中核にある重大事だ。しかし、人的資本経営が単なるかけ声に終始している企業は少なくない。SHIFTはモノが違う。同社の人的資本経営は最高水準にあると言ってよい。本書はその実像を克明に報告する。

飯山辰之介『SHIFT解剖 究極の人的資本経営』(日経BP)1980円(税込)

「人」「資本」「経営」の三つに分解して見てみよう。第一に「人」。主軸事業はソフトウェアのテスト。エンジニアにとって花形業務は上流に位置する設計や開発で、テストは付加価値を生まない仕事とみなされてきた。この地味な分野でSHIFTはのし上がってきた。2014年の上場時と比較して、現在の売上高は60倍。営業利益は120倍以上。

 華やかな事業ではない。先端技術があるわけでもない。人材(だけ)で勝負する。創業経営者の丹下大は言う。「人ほどレバレッジが利く商品はない」――工作機械の生産性をいきなり2倍にするのには無理がある。しかし、人の生産性はやりようによっては3倍にも4倍にもなる。

 人を学歴や前職で判断しない。他のIT企業はスキルを重視する。SHIFTは逆だ。独自のロジカルな手法を駆使して、自他ともに能力に気づいていない人材をターゲットにする。前職は宮大工、警察官、看護師、俳優、フリーター……自ずと多様性は高まる。

 第二に「資本」。人は資本であって、単なる労働力ではない。資本とは「将来において価値を生み出すもの」を意味する。社員の年収はコストではない。成長への先行投資に他ならない。投資である以上、経営がリスクをとって先に動く。将来の価値を見越して、先に給料を上げる。社員の年収を上げられないのは投資の縮小と同じ。すなわち経営が成長戦略を見つけられずにいることを意味する。

 SHIFTの急成長は、既存のITサービス大手が硬直的な人事制度を続けていたことと裏腹の関係にある。人材の採用や評価基準が曖昧で、不遇な人材が日本に溢れている。部署ごとに人件費の総額を決め、相対評価で給料を傾斜配分する――「こんなやり方は人に対する冒涜」だと丹下社長は言い切る。SHIFTは市場の目線で人材をフェアに評価する。どんな職種であろうとも市場価値に照らした絶対的な評価基準を設定する仕組みがある。

 将来価値を見極めて投資するためには緻密な人材評価が必要になる。キモになるのが評価会議だ。8人の役員が評価会議に使う時間は1年間で延べ1200時間。経営陣が半期ごとに約1ヶ月の間缶詰になる。社員一人一人について働きぶりやポテンシャルなどを評価し、この場で投資額(年収)を決定する。

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source : 文藝春秋 2026年2月号

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