芥川賞作家、米谷ふみ子95歳 ロス高級住宅街大火災で家を喪う

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あれから1年、シニアホームに引っ越した作家を訪ねた

 ロサンゼルスには雨がない。

「今日の約束、どうします?」

 たまさか降ろうものなら、誰からともなくこんな連絡を入れる。これでは日本で使いものにならないが、それほどこの街には雨がない。

 そのうえ、秋から冬にかけて東の砂漠から熱風が吹いてくる。「サンタアナ・ウインド」と呼ばれるこの風は、ロサンゼルスの背後に聳える山々や峡谷を一気に駆け下り太平洋へと流れ込む。こうなると、乾燥し切った全米第2の都市はひとたまりもなく、ささいな火がたちまち炎の嵐となって荒れ狂う。

 以上が、毎年のように世界を騒がすロサンゼルス火災の発生メカニズムだが、それにしても1年前、松の内も明けぬ間に起きた猛火は凄まじかった。炎は24日間も燃え続け、延焼面積200平方キロメートル、被災建物1万6000棟強、死者31名、避難住民は実に20万人以上におよんだ。

 なかでももっとも被害甚大だったのが、太平洋に面した高級住宅街、パシフィック・パリセーズ(以下パリセーズ)である。東京都青梅市とほぼ同じ広さ(約95平方キロメートル)に2万7000人が住まったなだらかな丘陵の街は、火災発生から4日後には9割方が焼け落ちた。

米谷ふみ子氏(家族提供)

 パリセーズの惨状を聞いた時、すぐに想ったのが作家、米谷ふみ子さんのことだった。米谷さんには、25年前、私がロサンゼルスに移住した直後に一度お逢いしている。ご自宅を訪ねたのだが、その家こそはパリセーズにあった。

 米谷さんとはその後、時折電話で話したもののいつしか交流は途絶えていった。代表作の『過越しの祭』(芥川賞受賞・1985年下半期)や『ファミリー・ビジネス』(女流文学賞受賞・98年)ほかに見られる米谷文学の特徴は、米谷さんがモデルと思われる主人公が、やりきれない人生を強靭な精神力で乗り越えていく点にある。その強い心に私が怖じけた、それが交際が自然消滅した理由だったような気がする。

 それに、米谷さんには“彼”がいた。小説にもたびたび登場する脳障害を持つ次男――彼と生きる米谷さんの痛苦は私などにはわかりようがなく、そのことに負い目に似た感情も抱いていた。

 大火から1年が過ぎ、最近になって米谷さんがシニアホームにいることを知った。ご自宅はやはり全焼したという。95歳になる米谷さんの心情はいかばかりか。

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source : 文藝春秋 2026年2月号

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