ジャーナリストの大西康之さんが、世界で活躍する“破格の経営者たち”を描く人物評伝シリーズ。今月紹介するのは、シルビオ・ベルルスコーニ(Silvio Berlusconi、元イタリア首相、メディアセット創業者)です。
シルビオ・ベルルスコーニ
公開中の映画「LORO(ローロ)欲望のイタリア」の主人公は元イタリア首相にして同国最大のメディア企業、メディアセットのオーナー、シルビオ・ベルルスコーニである。「映像の魔術師」パオロ・ソレンティーノがメガフォンを取り、ソレンティーノとのコンビで数々の名作を残してきたトニ・セルヴィッロがベルルスコーニ役を怪演している。
古代ローマ帝国の統治の要諦は、「パンとサーカス」を与えて市民を政治的無関心に止めることだったが、2000年の時を経て、イタリア首相になったこの男が国民に与えたのは、「メディア」という名のサーカスだった。
我が国の首相は先ごろ、在任日数が桂太郎の2886日(8年弱)を超えて歴代最長となった。しかし脱税から買春までスキャンダルのデパートとも言えるベルルスコーニの在任日数は9年に達した。幾度も権力の座を追われながら、その度に不死鳥のように蘇った。
1936年、王政時代のイタリアで、銀行員の息子として生まれたベルルスコーニは、ミラノ大学を卒業した後、父親の務める銀行から融資を受けて不動産会社を立ち上げる。第2次世界大戦で疲弊した欧州経済を再生する、アメリカの「マーシャルプラン」に乗り、大規模な宅地開発を手がけて財を成した。
不動産の次に目をつけたのがメディアである。戦後、イタリアでは国営のイタリア放送協会(RAI)がテレビ事業を独占していたが、1975年に民間の参入が認められると、いち早くテレビ局を開設した。当初は「民放が国営放送に勝てるはずがない」と言われたが、ベルルスコーニは刺激の強いお色気番組と米国製のドラマやクイズショーを持ち込んで、堅苦しいRAIに飽き飽きしていたイタリア国民の喝采を受ける。
社会党など有力政党との太いパイプや資本力を生かしてイタリア各地で放送免許を獲得。全国放送ネットワークを作り上げ、RAIと互角の視聴率を稼ぎ出した。
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source : 文藝春秋 2020年1月号