杉山響子「憤怒の人 母・佐藤愛子のカケラ」

梯 久美子 ノンフィクション作家
エンタメ 読書

率直にして明晰、ユーモアの向こうに愛情が見える

 さらりと読めて、ときに切なく、おかしいのに涙が出る。親の介護をテーマにした本は多いが、このエッセイほど笑い、首がもげるほど頷き、最後に大泣きしたものはない。

杉山響子『憤怒の人 母・佐藤愛子のカケラ』(小学館)1870円(税込)

 著者・杉山響子の母は佐藤愛子。別れた夫の借金を返すため、子供を育てながらひたすら書き続け、多くの読者を獲得してきたこの大作家を、愛読者も編集者も、敬意と親しみをこめて愛子先生と呼ぶ。40年来の読者である私もそう呼んできた。

 100万部超えのベストセラー『九十歳。何がめでたい』から10年。昨年102歳になった愛子先生が、アルツハイマー型認知症をわずらっていることを、本書で初めて知った。

 自宅の書斎に電動ベッドを入れるとここは病院だと勘違いし、やがて監禁されているという妄想が生まれる。急に正気に返り、「ごめんね」「いつからこうなったの?」と謝る。そして「いずれこのことを書く日が来るだろうね。書けばみんな飛びつくわ」と言う。このまま時が止まってほしいと響子さんは思う。

 そのとき「田畑麦彦に会いたいなぁ」と愛子先生が言う。田畑麦彦とは借金を負わせた元夫、つまり響子さんの父で、もうこの世にいない。

〈「あんなに怒ってたのに? 頭から水ぶっかけた相手なのに?」/「でもねぇ、あの人の言葉には説得力があったんだよ」/私は父を想う母を生まれて初めて見た。/これが私が本当の母と話した最後となった〉

 以後、愛子先生は、いろいろなことが解らなくなっていく。

有料会員になると、この記事の続きをお読みいただけます。

記事もオンライン番組もすべて見放題
初月300円で今すぐ新規登録!

初回登録は初月300円

月額プラン

初回登録は初月300円・1ヶ月更新

1,200円/月

初回登録は初月300円
※2カ月目以降は通常価格で自動更新となります。

年額プラン

10,800円一括払い・1年更新

900円/月

1年分一括のお支払いとなります。
※トートバッグ付き

電子版+雑誌プラン

18,000円一括払い・1年更新

1,500円/月

※1年分一括のお支払いとなります
※トートバッグ付き

有料会員になると…

日本を代表する各界の著名人がホンネを語る
創刊100年の雑誌「文藝春秋」の全記事が読み放題!

  • 最新記事が発売前に読める
  • 編集長による記事解説ニュースレターを配信
  • 過去10年7,000本以上の記事アーカイブが読み放題
  • 塩野七生・藤原正彦…「名物連載」も一気に読める
  • 電子版オリジナル記事が読める
有料会員についてもっと詳しく見る

source : 文藝春秋 2026年4月号

genre : エンタメ 読書