ドイツを代表する社会哲学者であるユルゲン・ハーバーマス氏が3月14日に96歳で亡くなった。
〈(ハーバーマス氏は)社会情勢に対して積極的に発言する批評家としての顔を持ち、ドイツで最も影響力のある知識人の一人だった。/一九二九年、独西部デュッセルドルフ生まれ。五四年にボン大学で博士号を取得し、ハイデルベルク大学やフランクフルト大学で教授を務めた。六二年に発表した「公共性の構造転換」で有名となり、市民社会における公共性の概念を取り上げて構造変化を論じた。/暴力ではなく対話を通じた相互理解を唱える「コミュニケーション論」の第一人者としても知られ、執筆し続けた多くの書籍は日本語にも翻訳されている〉(日本経済新聞電子版、3月15日)
評者にハーバーマスを読めと指導したのは、ドイツ出身のクラウス・シュペネマン(1937〜2021)先生だった。評者は1981年、同志社大学神学部三回生のときから大学院を修了するまで指導を受けた。当時、先生は文学部哲学科の助教授だったが、神学部の兼任助教授も務めていた。神学と哲学はテーマが近いが、アプローチがまったく異なる。そのせいか世界のどの大学でも神学部と哲学部(文学部哲学科)は仲が良くない。評者が学んだ時期に神学部と哲学科の両方で教えていたのはシュペネマン先生だけだった。
評者は、共産圏におけるキリスト教を研究していた。先生はマルクス主義にも通暁しており、「日本のマルクス主義はソ連のスターリニズムの影響を強く受けている。思考が演繹的なので、現実に存在する社会主義国の実態を捉えられていない。『生きている社会主義』という切り口で考えなさい」と指導された。具体的には、評者が、国家が経済過程に干渉し、再分配政策に積極的に関与するようになったことを「国家独占資本主義」という術語で説明していることについて先生は「日本で主流となっているその言葉は、東ドイツの経済学者が提唱した概念で、西ドイツでは後期資本主義と言います。国家資本主義よりも包括的な概念なので、知っておいた方がいいです。そうでないとあなたの論文の内容が、西側の神学界で通用しなくなります」と述べ、知識人が想定読者に受け入れられる術語を使うことの重要性を教えてくださった。評者が「では、どういう勉強をすればよいのですか」と尋ねると、先生は「『生きている社会主義』を理解するためには、フランクフルト学派の社会哲学者、ハーバーマスの社会哲学を勉強し、物事を認識する前に意図的もしくは無意識的な利害関心があるという考え方を理解するとよいです」と言われた。「認識を導く関心」を常に考慮するという発想は、評者が外交官や職業作家になっても役立っている。
シュペネマン先生と一体の記憶
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