いま知っておくべき論点を、専門家がコンパクトに解説する「文藝春秋オピニオン 2026年の論点100」。この人気ムックの記事を「文藝春秋PLUS」でも紹介します。
「温室育ち」「温室栽培」――。その響きは、ぽかぽかと心地よい日差しを思わせる。ところが「温室効果ガス」となると、悪しきものの象徴のごとく語られるのが、いまの世の中である。
かつては違ったようである。宮沢賢治が約100年前に書いた『グスコーブドリの伝記』ではこんなやり取りが登場する。「先生、気層のなかに炭酸ガスがふえて来れば暖かくなるのですか」「それはなるだろう。地球ができてからいままでの気温は、たいてい空気中の炭酸ガスの量できまっていたと言われる位だからね」。主人公ブドリは、冷害に苦しむ人々を救うため、火山を噴火させてCO2を増やし、大気を温めようと試みる。そこでは「人を救う温暖化」として温室効果が描かれていた。
しかし時が経ち、風向きが変わる。今から50年ほど前、「このままでは深刻な温暖化になってしまう」と、ロシアの科学者ミハイル・ブディコ博士が警告した。今思えば拍手喝采なのだが、当時は首をかしげる人が多かった。温暖化が来るかどうかもいぶかしかったし、温かくなれば子孫に豊かさをもたらすと信じていた学者も少なくなかったからである。けれども現実の大気は、彼の計算式をなぞるように確かに危険なほど温まりつづけた。そして2024年、ついに世界の気温は観測史上の頂点へと達してしまった。
2025年は日本人にとっても身につまされる過酷な年となった。記録1位の暑い夏になって、群馬では国内の最高気温(41.8℃)が飛び出した。夏の風物詩は姿を変え、花火大会は秋へと移り、甲子園は灼熱の時間を避けて二部制になった。ブタは夏バテして肉の値段は過去最高に跳ね上がり、“高嶺の花”ならぬ、“高値のハム”に泣く夏だった。「真夏日(30℃超)」「猛暑日(35℃超)」といった枠ではどうにも足りなくなって、いよいよ気象庁は、40℃を超える日にふさわしい呼び名をあれこれ考えている。
北日本とほぼ同緯度のスペインは、6月の時点で46℃まで気温が上がった。「脱水を進めるから、お酒は我慢しましょう」と気象庁がたしなめるほどの暑さで、山火事も過去最大に広がった。サンタ・クロースの住む北欧フィンランドでは、史上初めて3週間連続30℃を超え、厚着のサンタは時短勤務、いつもは森を駆け回るトナカイは南から来た蚊に追いかけられた。
温暖化は、極に向かうほどにひどくなる。白い氷が解け、かわって黒っぽい海や大地が現れることで、地球が日光をより吸収するからである。新雪は太陽光の8~9割を跳ね返すのに対し、森林は1~2割、海なら1割以下である。
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