廃炉最前線 福島第一原発の「若き指揮官」たち

森 健 ジャーナリスト
ニュース 社会
3・11から今年で9年を迎える。事故が起きた福島第一原発は今、どうなっているのだろうか。実は、いま過酷な現場を仕切っているのは、かつて原発輸出を夢見た30代の若手技術者だった。その姿を追った――。

核燃料取り出しを遠隔操作で

 それはあの震災から8年で辿り着いた一里塚だった。

 8センチ幅で広げられる「爪」。その爪を使って溶け落ちた核燃料のデブリ(破片)をつかみ、動かした。2019年2月13日、福島第一原子力発電所の2号機でのことだ。

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デブリをつかんだ「爪」

 震災時、圧力容器内にあった核燃料は高熱のまま溶融、圧力容器の底面を溶かし、格納容器内に溶け落ちた。その内部の様子は以前に内視鏡カメラで確認できていたが、どのような状態で、どの程度触れるかについてはわかっていなかった。

 調査は「フィンガ」という「爪」で物を挟む装置をつけた機材を格納容器内に送りこみ、遠隔操作で床にある小石状のデブリをつかんでみるという試みだった。結果は、デブリに6回接触、うち5回で小石のようなデブリを持ち上げることに成功した。ただし、爪の“握力”は約7ニュートン(700グラム)で、そう大きなものではない。

 それでも、プロジェクトに関わった人たちの感慨は小さいものではなかった。東芝エネルギーシステムズで原子力福島復旧・サイクル技術部に所属する中原貴之(38)は、遠隔操作で動かす様子を見ながら、8年経ってようやくここまで来たか、という思いをもったという。

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中原氏

「固まっているデブリをどう切り出すのか、取り出したデブリをどう安全に処理するか、という課題はあります。それでもデブリをつかんだ。次はそれを持ち出すこと。それは遠い未来じゃないと思います」

すべてが「世界初」

 東日本大震災からまもなく9年。東北各地では、被災地という言葉もほとんど耳にしなくなった。

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source : 文藝春秋 2020年2月号

genre : ニュース 社会