杉山茂丸・夢野久作 憂国と文学をつなぐもの

杉山 満丸 杉山茂丸の曾孫
ニュース 政治

『ドグラ・マグラ』で知られる作家・夢野久作(ゆめのきゅうさく)(1889―1936)。その父は黒田藩士の家に生まれた杉山茂丸(すぎやましげまる)(1864―1935)である。茂丸は頭山満がはじめた玄洋社の運動に共鳴し、伊藤博文、山県有朋、桂太郎らの相談役も務め、明治から昭和にかけて「政界の黒幕」とも呼ばれた。高校教諭の満丸(みつまる)氏は茂丸の曾孫にあたる。

 私は久作の妹・石井多美子から、こんな話を聞いたことがある。多美子が小学生の頃、父の茂丸に「お父さんのお仕事はなあに?」とたずねた。茂丸の答えは、「一生懸命働いている者が正当に評価してもらえる世の中を作るために働いているんだよ」。ここに茂丸の原点がある。

夢野久作 出典:国立国会図書館「近代日本人の肖像」

 明治維新後、薩摩・長州出身の政府高官が私利私欲に走ったために国民の生活が良くならないと考えた茂丸は、総理大臣・伊藤博文侯の暗殺を企てる。ところが、実際に面会した伊藤侯は、茂丸の抗議に丁寧に証拠を示して反論した。「君は国家のために自分をもっと大切にしなさい」と諭され、夜半まで話し込んだふたりの交際は終生続いたという。

 伊藤侯が暗殺される直前、その情報を知った茂丸は下関に伊藤侯を訪ね、「朝鮮に渡ってはいけない」と説得したという話が杉山家には残っている。

 その後も茂丸は、日本の独立を守るために奔走する。単身渡米し、J・P・モルガンから低金利の融資の約束を取り付けたり(これが日本興業銀行設立につながった)、日露戦争に勝つため、秘密結社を作り、ロシア革命を密かに支援していたという。また、アジア各国の植民地化を防ぐことが日本の独立保持につながるとの思いから、中国の孫文や、インドのR・B・ボースをかくまった。

 政治活動に邁進するいっぽうで、茂丸はほとんど家庭をかえりみることはなかった。長男の久作(本名・直樹。後に出家して泰道)は、茂丸が若くして実母を離縁したため、茂丸の再婚相手である義母と異母兄弟とともに、祖父である三郎平に育てられる。三郎平は筑前福岡黒田藩の儒学の教授であった。久作は幼い頃から成績優秀だったが、茂丸の命を受けて一時、軍隊に入った。除隊後、慶応義塾大学文学部に進んだものの、父から、「文学や芸術は国のためにならない」と退学させられ、郷里福岡に戻された。

 茂丸は反発する息子に「福岡郊外に農園を作りたい。まとまった土地を買ってくれ」と指示する。「これからはアジアの時代だ。この農園は、アジア各国が独立後、若き農業指導者を養成するためのものだ」。その夢の壮大さに感動した久作は、茂丸に認められたい一心から地主と粘り強く交渉し、たったひとりで4万坪もの土地買収を成し遂げた。

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source : 文藝春秋 2007年2月号

genre : ニュース 政治