他社に先駆けて「正田美智子(しょうだみちこ)」(1934―)がお妃候補に上がっていることを突き止めた元朝日新聞記者の佐伯晋(さえきすすむ)氏は、取材過程で正田家に深く信頼され、美智子妃が誕生する過程を家族の傍らで見守った。皇室会議後、記者会見に出発する姿を家の中から見送った唯一の記者である。
「お断りする」から「お受けする」に変わったのは数日の間に起きた事でした。
昭和33年9月後半から10月にかけて正田家の拝辞の意向は、実は海外の旅先から両親に宛てられた美智子さんの長文の手紙が、そのまま小泉信三東宮職参与に渡される形で伝えられたのです。手紙はその都度、黒木従達東宮侍従を経て皇太子に届けられました。文面は、考え抜かれた結論が委曲を尽くして認(したた)められており、御自分がその任に堪えぬことを誠意を込めて詫びたものだった、と黒木侍従は回想しています。

このように美智子さんも正田家もお断りされる姿勢を示していた。ところが帰国直後から連夜、皇太子が長時間の電話によって説得し、ついに最終段階で美智子さんの気持ちが変化したのです。
母の富美子さんは、美智子さんからそうした心の変化を打ち明けられ、その意志を尊重してあげたいと思ったようです。一家は11月2日から箱根の富士屋ホテルに出かけますが、富美子さんはここで話を切り出し、父の英三郎さんと兄の巌さんを説得し、家族全員の了解を取り付けようとしました。しかし、英三郎さんと巌さんからすれば、にわかには賛成できなかった。あんなにはっきりと「お断りしたい」と手紙で表明していたのに、帰国後どうして、そのように変わってしまったのか、まったく理解できなかったのです。そのため、箱根での家族会議は揉めて、決裂しました。
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source : 文藝春秋 2013年1月号

