Google, Apple, facebook, amazon――。これらは、その頭文字を取ってGAFA(ガーフア)と呼ばれるIT業界の4強だ。過去20年間にわたり、知りたいことが一瞬でわかる検索や、SNSによる人々の新たなつながり方、豊富な商品群を持ったeコマースなど、我々の世界に技術の進歩と豊かさをもたらした。GAFAが生んだ富の額は、約2兆3000億ドルにも及ぶ。
しかしGAFAを「ヨハネの黙示録の四騎士」(地上の4分の1を支配し、剣、飢饉、悪疫、獣によって地上の人間を殺す権威を与えられた者たち)に例える人物がいる。『the four GAFA 四騎士が創り変えた世界』(東洋経済新報社)を記した、ニューヨーク大学スターン経営大学院のスコット・ギャロウェイ教授(55)だ。同書は世界22カ国で刊行され、2018年に日本で出版されると12万部のベストセラーとなり、まだ読者の裾野を広げている。
ブランド戦略とデジタルマーケティングを教えるギャロウェイ氏がGAFAの功罪と、GAFA後の世界を語った。(取材協力・写真 大野和基)
スコット・ギャロウェイ(ニューヨーク大学スターン経営大学院教授)
GAFA抜きでは生活できない
GAFAは、もはやユーティリティ(電気・ガス・水道などの公共サービス)のように、人々の生活に欠かせないものになりました。スマホを持たずSNSを使わず、GAFA抜きで生活することは、電気がない状態と同じです。
何かを検索したければ、検索市場シェア90%以上のグーグルで検索をします。また、世界的に裕福な人はみな、アップル製品を持っています。アップルの手元資金は約2500億ドル(2017年)、デンマークのGDPとほぼ同じです。そして、12億人が毎日フェイスブックとのかかわりを持ち、ユーザーは1日50分をフェイスブックに費やしています。さらに、全米世帯の52%の家庭がアマゾン・プライム(日本では年間約5000円、アメリカでは約1万3000円で、配送料の特典や配信動画を見ることができるサービス)を利用しています。いまや、創業者のジェフ・ベゾスの資産は、約1310億ドルの世界第1位です。
GAFAは、脳・心など人間の感覚に直接アプローチします。これは、進化心理学の観点からも、成功するビジネスの共通点です。例えば、グーグルの検索エンジンは、私たちの脳が賢くなったと思わせてくれますし、フェイスブックは、あなたを友人と結びつけ、心に訴えます。さらに、他社との差別化や世界展開、AIによるデータ活用などにより、GAFAは世界の覇権を握りました。
独占力の乱用
さらに最近では、他の企業がそのビジネスにアクセスすることが難しくなるよう、強大な資本力を武器に、独占状態を作っています。独占力の乱用と主張する人もいます。
例えばアマゾンやアップルです。アメリカでは今、動画配信会社のストリーミング戦争が起きています。HBO Max, Hulu, Disney Plus, NETFLIX が顧客獲得競争をしています。しかし、これらの企業のほとんどは、アマゾンやアップルに手数料を支払っています。視聴者はHBOが制作した作品を見るとき、HBOにお金を払っているつもりかもしれません。しかし、ほとんどの場合、動画を見るためにアマゾンのAmazon fire stickや、アップストアを通じてダウンロードしたアプリを使用しています。すると、HBOはアマゾンや、アップルに手数料を払うことになるのです。例えば、アップルは、アプリを販売する外部事業者から、3割の販売手数料を徴取しています。
もはやGAFAは、高速道路にある巨大な料金所に変貌しつつあると言っても過言ではありません。
顧客の数が増えれば増えるほど事業の価値が高まり、顧客にとって便益が増すことを「ネットワーク効果」と呼びます。GAFAはネットワーク効果をてこにして、強固な独占状態を作りました。
その結果、新しい企業が市場を開拓できる余地がなくなりました。20年前、アメリカでは企業に占める、起業から1年以内のスタートアップ企業の割合は15%でした。しかし、現在では7%に届きません。テクノロジー・デバイスやソーシャルメディア、サーチエンジン等の技術革新が激しい分野で、新しいスタートアップ企業は、資金を調達することができず、起業が難しくなったのです。GAFAの支配によって、我々はイノベーションが起きない時代を生きざるをえなくなりました。
もちろん、GAFAがもたらしたメリットは非常に大きい。しかし、化石燃料から恩恵を受けたからといって、気候変動の問題に目をつぶってよいとはなりません。GAFAに独占禁止法などの規制が必要かどうか、見定める必要があります。
社会の分断
GAFAがもたらしたデメリットは、イノベーションの行き詰まりだけではありません。社会の分断という問題もあります。
GAFAの中から、フェイスブックとグーグルを取り上げましょう。この2つは、世界で最も支配的なメディア企業ですがそのアルゴリズムは中立で、世界を良くしようとも、反対に悪くしようとも思っていません。そして、両社とも、広告収入をビジネスモデルとしています。ですから、彼らは、読者がクリックをして、より多くの記事や投稿と「繋がること」を求めます。
その「繋がり」を促す一番の要素は、「怒り」です。対立と激怒を煽る投稿こそ、多くのクリックをもたらすのです。少数派の人が書き込むネガティブな内容が、炎上して物議を醸し、シェアされていきます。
例えばもし、「ワクチンが子供の病気を減らす」という科学的な記事を投稿しても、議論の余地のない事実なので、リツイートはされません。ところが、もし私がセレブで、「ワクチンは自閉症につながるから、接種は止めるべきだ」と投稿すれば、多くの議論と怒りを引き起こします。すると、フェイスブックとグーグルのアルゴリズムは、多くの「つながり」を検知して、彼らのビジネスモデルにとって「良い記事」だと判断します。そして、その投稿に人の目に触れる機会を多く与え、グーグルやフェイスブック内でのランキングが上昇するのです。
また、このアルゴリズムは、あなたの政治的な好みを見極め、その考えを強化するだけでなく、反対派の印象を悪くするデータも提供し始めます。虚偽の内容でもおかまいなしです。そういった記事を見ることは、同族意識をくすぐり、ユーザーに満足感を与えるからです。
ここでは、多くの有害な内容が、その価値以上に注目を集めています。つまり、フェイスブックやグーグルのアルゴリズムとビジネスモデルが、人々の怒りを煽り、フェイクニュースを生み、社会を分断しているのです。
我々はメディアではない
しかし、フェイスブックのスポークスマンは、このようなフェイクニュースについて「我々は真実の判定者にはなれない」と述べました。また、虚偽の政治広告を取り下げることを拒否しました。
我々が改めて心に留めるべきは、GAFAの唯一のミッションは金儲けだということです。編集権限やセーフガードを機能させ、ヘイト活動家が発信した、内容に問題があるコンテンツを排除することは、クリック数を減らし、多額の収益を失わせます。フェイスブックにはそうしたことを行うインセンティブが、全くないのです。
さらに“我々をメディアと呼ばないでくれ。我々はプラットフォームだ”という態度を貫き、フェイスブックは社会的責任を回避しています。アメリカ人の44%がフェイスブックでニュースを見ているにもかかわらずです。
真剣にニュースビジネスに向きあう企業は、自分たちが報じるニュースに責任があることを認識しています。しかし、客観性やジャーナリスト倫理には労力と費用がかかり、その分、利益が減ります。だから、フェイスブックやグーグルはメディア企業と見なされるのを嫌うのです。
しかし、フェイスブック上で、『ニューヨーク・タイムズ』や『ワシントン・ポスト』の横に並ぶと、フェイクニュースまで信憑性があるように見えます。
ただし、繰り返しますが、フェイスブックの使命は金儲け。彼らは自分たちの仕事をしているだけです。ミスをしたのは我々です。このような企業に対して、他のメディアと同じ基準を守らせる政治家を選挙で選ばなかったからです。
他のメディアならば、噂や虚偽のデータに基づいた情報を流せば、大きなトラブルになります。しかしテクノロジーによって動くメディア企業には特別の待遇を与えてしまいました。
世界で最も危険な人物
フェイスブックとグーグルは、長期的に見ると、いかなる国民国家よりもパワフルです。フェイスブックは現在、南半球とインドを加えたよりも多い人々の考えに影響を与え、その方向性を変えることができるコンテンツを提供しています。
しかも、フェイスブックは選挙で解任されない人によって運営されています。トランプやプーチンでさえ、任期がある。にもかかわらず、マーク・ザッカーバーグは、あと70年フェイスブックを運営するかもしれません。歴史を通して「権力は腐敗する」ことは自明の理です。しかし、取締役会は彼を排除できない。35歳のザッカーバーグは、今や世界で最も危険な人物です。
20億人に影響を与えるザッカーバーグ
それでは、国家がGAFAに立ち向かう可能性はあるのでしょうか。私は、今年か来年には、GAFAを禁止する国が出てくると思います。選挙が以前より公平でなくなっている、社会が以前より分断されている、経済成長や経済的利益の大部分が国外に持ち出されている、といった理由によってです。
また、EUでは、巨大なデータを集めるGAFAのパワーに対する反発があり、EU域内の個人データを保護する法律であるGDPR(一般データ保護規則)を2018年から施行しました。この風潮は世界的に拡大するでしょう。
カリフォルニア州にはすでにGDPRに似た法律があります。ターニングポイントとなったのは、2018年、およそ8700万人の個人データをフェイスブックと不適切に共有した疑惑のある政治コンサルティング会社、ケンブリッジ・アナリティカが、大きな批判を受けて廃業したことです。
ケンブリッジ・アナリティカはフェイスブック上に「性格診断アプリ」を設置して、データを獲得しました。そこから得た利用者の政治的志向などの情報が、2016年の大統領選でトランプ陣営によって不正に使われた疑いが明らかになったのです。これ以降、政府や監視機関は、GAFAの情報管理に対して懐疑的になりました。
しかしフェイスブックに政府が行なったことは、罰金のみです。その額は50億ドル。フェイスブックにとっては総収入の約11日分、たった11週間のキャッシュフローに過ぎません。国に悪影響を与える行動をとることのデメリットが、駐車違反チケット程度の罰金を時々支払うだけならば、彼らの行動はずっと続くでしょう。
さらに問題は、政府にこうした分野の知識があるかどうかです。選挙で選ばれた議員のうち、テクノロジーやエンジニアリングの知識があるのは、わずか4〜8%です。さらにGAFAは、政府との戦いに備えて、ロビー活動を大幅に強化しています。ワシントンDCには、アマゾンのフルタイムのロビイストが100人ほどいます。彼らの日々の仕事は、アマゾンに不利な法律が日の目を見ないようにすることだけです。
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source : 文藝春秋 2020年2月号