「編集長は司会業みたいなところがあるよ」
今年3月、引継ぎの際に、前編集長から言われた言葉です。月刊「文藝春秋」編集長は年に4回、賞の選考会の司会をします。その4回とは、芥川龍之介賞(年2回)、大宅壮一ノンフィクション賞、文藝春秋読者賞です。そのうち、大宅賞の司会を初めて務めました。大宅賞は、公益財団法人日本文学振興会が主催し、前年の1月から12月までに発表されたノンフィクション作品の中から選ばれます。5月13日、都内のホテルに、選考委員5名の方が集い、選考会が開かれました。

司会には、先輩たちが残してくれたマニュアルがあり、それに則り、進めていきます。今回の候補作は次の4作でした。
「沈黙を破る 『男子の性被害』の告発者たち」(秋山千佳、文藝春秋)
「冤罪の深層 追跡・大川原化工機事件」(石原大史、幻冬舎)
「アフリカから来たランナーたち 箱根駅伝のケニア人留学生」(泉秀一、文藝春秋)
「シリアの家族」(小松由佳、集英社)

まず1作ずつ、選考委員に評価をお聞きします。評価は〇、△、×の3つで〇が1点、△が0.5点、×が0点。たとえば、〇が1人、△が2人、×が2人だと2点ということになります。点数を集計し、点数の低い作品から、講評をうかがっていきます。講評は〇をつけられた方に最初にうかがい、次に△、×という流れで進みます。これを全作品について行います。面白いのは、議論の過程で、評価が上がる作品、下がる作品が出てくることです。評価は、単に作品の優劣という話にとどまらず、大宅賞にふさわしいノンフィクションとは何かという観点からも議論になります。
私は、29年の社員生活で初めて選考会の議論を生で聞くことになりました。選考委員の方々のさまざまな視点、論点が交わされることで、さらに議論が深まっていき、そして、自然と受賞作品が決まる。その過程を目の当たりにし、ずっと皆さんの意見を聞いていたいという感覚になりました。選考会は、いわば「最高の読書会」でした。
前職の経営戦略企画部にいた際、付き合いのある銀行から「日本一有名な芥川賞・直木賞を運営している日本文学振興会に、賞を運営するとはどういうことなのか聞きたい」と頼まれ、私も同席したことがありました。その時、横で聞きながら感じたことは、日本文学振興会の賞はガチンコだから、これだけ大きな存在になったのではないかということです。いずれも、候補作と選考委員のメンバーが事前に公表され、受賞作が決まり、その理由も選考委員が選評という形で世に出す。それがゆえの緊張感、真剣勝負が、ここまで賞を続かせてきたと思います。
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