コント55号でお茶の間を沸かし、「視聴率100%男」の異名をとったコメディアンの萩本欽一(はぎもときんいち)(1941―)。その軌跡を見続けた放送タレントのはかま満緒(みつお)氏(1937―2016)が人気の原点を解き明かす。
萩本欽一と初めて出会った時、とても大人しい、内気な青年だなと思いました。「面白いやつが浅草にいる、見てやってくれ」と向井爽也さん(当時TBSディレクター)が見染めて新大久保の私の家に連れて来たのです。
当時、欽ちゃんは浅草松竹演芸場で劇団浅草新喜劇を旗揚げして座長公演をしていました。でも、欽ちゃんは向井さんが「君テレビに出ないかい?」と言っても、「僕は浅草でいいですよ」と照れてしまう。あとになって聞いてみると、「テレビに出ることは怖い、浅草で十分です」と言っていました。
そのころ私の自宅はコメディアンが沢山出入りしていました。トリオ・ザ・パンチ、てんぷくトリオ、玉川良一。いわば「笑いの登竜門」のような場所でした。欽ちゃんと同じ頃、後に脚本家になる市川森一も来ていました。
四六時中仲間がいて、わいわい遊んでいましたね。それも「2階からスローモーションで降りる方法を考える」とか、「将棋で負けたら皆を大笑いさせる謝り方をする」とか、笑いにつながっていく“遊び”でした。

ある時、映画『モーガン警部』の音声を消して、新しい台詞をつける遊びをやっていて、警部がガソリンスタンドへ行ってドアを開けて店員に話しかけるシーンがあったのですが、欽ちゃんはそれに「君、ここはリッターいくらだい?」。上手いなあ、と思って今でも忘れられないですね。
実はね、欽ちゃんのツッコミの“師匠”は僕なんですよ。彼はそれまでボケをやっていたけれど、当時はツッコミでないとスターにはなれない。欽ちゃんは、僕が他のコメディアンに冗談で「面白くないよ、お前」などと言っているのを、黙ってじーっと見ていたんです。だから、彼のツッコミを見ると、ヘンな感じがするのです。僕と同じようなツッコミを入れているから(笑)。
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source : 文藝春秋 2013年1月号

