「チュコトカ」は、ロシア語でユーラシア大陸の最東端にあるチュコト自治管区を指す。面積は日本のほぼ倍で、その半分ほどが北極圏内にあり、年間の平均気温はマイナス12度。最も気温が高い7月でも平均12度弱という、大半をツンドラ地帯が占める国境の大地だ。本書はそんな北限の地を歩んだ後藤悠樹氏の2016年の旅を記録したものである。

この秘境を今から30年前に訪れ、直後にカムチャツカ半島で亡くなったのが、写真家の星野道夫氏だった。後藤氏は学生時代に父に薦められて星野氏の著作を手に取り、やがて写真家になった。
「星野さんはチュコトカを旅する中で、印象的な先住民の家族を撮影し、未完の遺作『森と氷河と鯨』に日誌とともに残していました。私は、偶然が重なってその写真を預かることになり、撮影された一家のもとへ渡しに向かったのです」
国境地帯で、外国人の移動は厳しく制限されていた。それでも「地球の果て」とも称される大地の印象は鮮烈だった。
「ツンドラでは樹木が育たず、高さ数センチのコケ(地衣類や蘚苔類)が地表を覆っています。空が近く、まるで宇宙にいるような感覚でした。帰国後も毎晩、夢に見るほど大きな衝撃を受けました」
3週間の旅の中で一家に出会えた際には、思わずすっと力が抜けたという。
「彼らは星野さんのことをまるで昨日のことのように覚えていた。写真を見た瞬間、鍵が開いたかのように、時空を超えてその日の記憶が蘇るようでした」
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