
〇開催趣旨
企業環境が急速に変化する中、ROIC(投下資本利益率)経営は、単なる財務管理手法を超え、企業価値向上と戦略実行力を支える経営インフラとしての重要性が高まっています。人口減少、金利上昇、サプライチェーン不安、地政学リスク、さらには生成AIの進展により、事業ポートフォリオの見直しや資源配分の最適化は、もはや避けられない経営課題となりました。このような環境下で、「どの事業に投資し、どこから撤退するのか」「限られた資本と人材をどう配分するのか」といった意思決定の質が、企業の持続的成長の成否を左右しています。
こうした中、ROIC経営は“戦略・現場・データ”を統合する次世代型の経営モデルへと進化しつつあります。FP&Aや経営企画部門には、事業ポートフォリオ全体を俯瞰したシナリオ設計、ROICツリーを活用したKPI体系の標準化とモニタリング、戦略と現場をつなぐ翻訳者としての役割、AIとデータ基盤を活かした意思決定の高度化など、新たなミッションが求められています。予算作成や差異分析にとどまらず、CFO・CEOの戦略パートナーとして、企業価値創造をドライブする存在へと変革するタイミングにあります。
さらに、生成AIの導入によりROICマネジメントは大きく変わりつつあります。膨大なデータからの改善余地の自動抽出、投資案件の評価シミュレーション、自動生成されるポートフォリオ再編シナリオ、説明可能AIによる意思決定根拠の可視化など、AI活用は「管理の効率化」を超え、「意思決定の質の向上」へと役割を広げています。また、人的資本の重要性が高まる中で、人材投資がROICに与える効果の可視化、適正配置による投下資本効率の改善、組織能力と収益性の関係性の定量化など、人的資本とROICを結びつけた新たな評価軸も求められています。
本カンファレンス「ROIC経営 第7弾」では、収益性・成長性・組織能力を統合し、AI時代にふさわしいポートフォリオ再構築を実現する次世代ROIC経営のあり方を、有識者・実践者とともに深く掘り下げます。事業ポートフォリオ改革、FP&Aの役割変革、AIを活用した高精度な投資評価、ROICと人的資本の統合管理、現場を巻き込む組織変革など、戦略から実務までを一気通貫で考察し、企業価値創造の核心に迫った。
■基調講演
企業価値経営の本質
~ KPIの選定は経営テーマそのもの - 稼ぐ力を計る、ROIC、WACCの正しい理解 ~

一橋大学 名誉教授
伊藤 邦雄氏
一橋大学商学部卒業。一橋大学教授、同大学院商学研究科長・商学部長、一橋大学副学長を歴任。一橋大学名誉教授。現在、一橋大学CFO教育研究センター長。商学博士。2014年に「伊藤レポート」(経済産業省)、その後「伊藤レポート2.0」および「3.0」、「人材版伊藤レポート」および「2.0」)をまとめる。経済産業省「GXファイナンス研究会」座長、「TCFDコンソーシアム」会長、「人的資本経営コンソーシアム」会長、経済産業省・東京証券取引所「DX銘柄」評価委員長。
代表的なアクティブ投資家=井川智洋氏のエンゲージメントをまず紹介しよう。この考え方をベースに、本日の話を展開したい。
・投資家の視点から、企業価値創造を阻む課題を可視化し、経営判断を支える“対話のツール”を提供する
・PBRを構成要素に分解し、日本企業に共通する課題を特定
-ROE:稼ぐ力・資本効率/PER:株主資本コスト・成長率
・これらはエンゲージメントの焦点であり、CFOが自らの意思決定によって変えることができる“企業価値の主要ドライバー”
2014年の伊藤レポートから10年以上が経過。日米欧のROE・PER・PBRの推移を比較してみた。PBR(株価純資産倍率)はROE(自己資本利益率)とPER(株価収益率)に分解できるが、いずれも低い。特に日本企業は、将来の成長期待を示すとされるPERが減少傾向にある。
日本企業のROEの低さは、伊藤レポート1.0と2.0でも指摘のとおり、主に売上高純利益率(ROS)の低さに起因し、依然として欧米企業との格差は残る。
ただ、東京証券取引所が23年に公開した『資本コストや株価を意識した経営の実現に向けた対応について』の、「現状分析」にあたってのポイント・留意事項にWACC、ROIC、ROE、PBRなどの用語が入り、企業側が数字を意識するようになったのは画期的だ。
低PBR問題が起きているのは、資本市場の大原則に対する希薄な理解、経営トップの財務・会計リテラシーの低さ、P/ LばかりでB/Sに対する無関心、内部留保の本質の無理解、KPIの選択は戦略的な意思決定であることに対する無理解などに起因する。特に「何をKPIに選ぶか」は非常に重要なテーマである。
◎真のボトムラインは何か~ROIC経営とは
売上高から税金までのさまざまなコストを引いたものが会計的利益。そして、資本コストまでも考慮した経済的利益が真の利益であり、企業価値増減の指標であるべきという考え方がある。
以下の数式を頭に入れておいていただきたい。
経済的利益(EVA: Economic Value Added)=NOPAT-資本コスト
※NOPAT=Net Operating Profit after Tax、利息控除前税引後営業利益 資本コスト=投下資本×資本コスト率(WACC)
EVA(DVA)=(ROIC-WACC)×投下資本
※ROIC=NOPAT÷投下資本 WACC=資本コスト÷投下資本 DVA=Divisional Value Added、事業部ごとの経済的利益
ROICスプレッド=ROIC-WACC/EVAスプレッド=ROE-株式資本コスト
以上が測定式だ。測定結果をマネジメントに生かし、ROICと資本コストの活用による財務規律を効かせるには、事業ポートフォリオの組み換え・最適化を行わなければならない。
(1)収益改善 ROICスプレッドが負の場合:新たな投資を行わず、NOPAT、営業利益を改善させる。
(2)高付加価値 ROICスプレッドが正の場合:資本コストを上回るリターンを生み出すプロジェクトにさらに投資する。
(3)整理回収 ROICスプレッドが持続的に負の場合:事業からの撤退・売却、事業撤退前の事前警告。
(4)資本コスト 資本コストを引き下げる財務戦略・IR戦略・ディスクロージャー戦略の策定。
なお、事業の“ベストオーナー”論が昨今語られる。当該事業を自社が占有し続けることが企業価値向上の観点から適切か、戦略的に資金を投下し続ける覚悟・見通しはあるか、を検討する。実務的には、運用・議論が結構難しい。自社がベストオーナーではないと判断した場合、重要なステークホルダーとりわけ従業員に納得できる説明をする必要がある。
ROIC経営の留意点は以下のスライド参照。

◎今後の企業価値創造に向けた基本認識
「持続的な企業価値向上に関する懇談会」の検討結果を「座長としての中間報告」としてとりまとめた(経済産業省・24年)。課題としては、長期視点の経営の重要性/経営チーム体制の強化の必要性/取締役会の実効性の強化、などが挙がった。
これまでの10年間を企業価値向上に向けた日本の企業・資本市場改革のFirst Stageと位置づけるとすると、Second Stageを長期的な成長を実現する局面と捉えたい。Second Stageの課題は、
・グローバルレベル並みまたはそれ以上の更なる企業価値の向上を実現。
・コーポレートガバナンスの中心テーマは「監督」ではあるが、「守り」は依然として重要であるものの、稼ぐ力を高める「攻め」のガバナンスにどうシフトしていくべきか。
・長期時間軸での力強い成長を実現するには、GXやDXへの積極的な投資、人的資本や知的財産といった企業価値の決定に大きく寄与する無形資産への継続的な投資が必要。
財務規律を持った中長期成長投資を行うべきだ。歴史の針を戻さない、いつか通った道にならないように。PBR1倍は“minimun”である。PBR1倍割れ問題というキーワードにかかわらず、東証の市場区分の見直しは続く。先述の有識者会議での検討テーマは、現預金水準/社外取締役の質/有価証券報告書の総会前開示/取締役会事務局、などだ。
誰のための成長投資なのか。投資の意思決定者はもちろん経営者・経営陣だ。とはいえ資金の拠出者である投資家には、合理的なKPIと目標を示すべきだ。開示と対話も必要。「ステークホルダー資本主義」を持ち出すまでもなく、従業員や他のステークホルダーへの分配も必要である。投資によって企業が成長することは分配の原資の増大にもつながり、従業員にも投資家にもプラス。ただ、財務規律に基づいた、資本コストを上回る成功する投資でなければならない。
成長投資による果実は、サプライチェーン上の取引先も得られる。取引量の増大と価格転嫁によるサプライチェーンの強靱化にもつながる。
◎ROIC経営に欠かせないCFO組織の進化
FP&Aの狙いと期待を下記スライドにまとめた。

財務経理組織の日米の違い。日本企業は経理財務以外にも係数管理担当者が全社に分散しており、人数も把握できない。米国企業のCFOは、全社の経理担当者(FP&A)をとりまとめ、事業のわかる会計・ファイナンスのプロフェッショナルとして育成する。日本企業では、富士通の経理財務組織が好例として参考になる。
先述のように、KPIは経営の「型」を決める戦略的テーマだ。繰り返すが「成長投資型のROE・ROIC」が重要なテーマになっている。KPIの選択は経営戦略そのもの。KPIが変わると「風景」が変わって見える。バランスシートの見方も変わる。
■課題解決講演(1)
ROICを起点に描く企業価値向上
~日本企業における分析の多様化と経営管理データモデル構想の実践知~

株式会社アバント
東日本営業部 東日本第1営業部 シニアスペシャリスト
鈴木 健一氏
総合ファームでのシステム監査のキャリアスタートを踏まえ、一般事業会社での連結経営管理・連結会計システムの導入、運用に10年にわたり従事。アバントに参画後は、プロダクト企画(プロダクト責任者)および導入コンサルタントを経由しマルチ製品を商材として扱うプリセールスグループに所属。日系製造メーカ(組立系、プロセス系)および多角化コングロマリット企業のグループ事業管理のPJTを歴任。管理と制度を繋ぐAVANTプロダクトおよびEPMプロダクトに知見を有する。
◎ROIC可視化からその先へ、ROIC浸透から見た分析のトレンド
ROIC導入の背景、目的はさまざまだ。投資家の要請/経営陣のポリシー変更 (1)/中期経営計画でのKPI変更 (2)/コーポレート部門のコントロール強化/資金調達/業績評価体系へのシフト (3)/IPO準備の中でのKPI設定、などが挙げられる。
(1) では、キャッシュ・アロケーションからの事業ポートフォリオ経営へ。(2)では、単年ROIC可視化から複数年ROICへ。(3)では、浸透、事業評価との連動性を見越した段階へ、という方向性・課題が見られる。(1)~(3)の経営管理の課題は“ビジネスをどのように把握し、実行するか”にあるが、ROIC経営を行う上ではフロー/ストックの両面と質的側面も考える必要がある。
トレンドを2つ挙げる。
・大手企業のROIC可視化は一定段階まで進む(単年度ROIC、事業別ROIC)。ただし、運用は手作業で行うことも多く、知見者依存型がまだまだ多い。
・経営者は投資家との対話で“将来の見通し”を語る必要がある中で『直近のROICの動き(=今期の結果)』を語りつつも将来見通しについての手元データが少なく、リアリティが足りないと感じている。
◎分析の多様化の背景とその可視化の先に何を見いだすのか
報告業務から分析・提案業務へシフトさせることが、経営管理部門の存在意義向上につながる。例えば「今月はPLの利益達成できそう?」という問いに対し「着地は○○円になりそう。ただし、××ビジネスの過去のトレンドでは△△円下振れするかもしれない。今のうちに別の事業部と費用削減余地を会話しませんか」といった提案型(FP&A、高度化人材)の回答・動きをすることだ。
コーポレート部門はFP&A組織としての“付加価値”(事業部門に示唆を与え、客観視点からアドバイス)も要求される時代となっている。ROIC取組フェーズは以下のスライド参照。

ROIC経営の深化の過程においては“壁”が存在する。
・事業ROICの深化を進めると“どのような投資が最適なのか?”“将来ROICの最大化につながる投資の配分は?”の議論につながるが、PLおよびBSの情報では当該データまでは解析できない。
・DXドリブンでのツールの高度化は進むが、現状のシステム及びAIには、大量データの解析ができず経営者が欲しい情報にならない/経営管理においての分析の明確なプロセス定義が難しい/打ち手行動(経営上のアクション)の情報は定性情報であり、かつデータが蓄積されにくい、といった課題がある。
◎経営管理データモデルと今後の展望
先述の、大量データの解析ができない、という“壁”を突破するための事例を挙げる。AIを含めた大容量解析ではなく、まとまった形(データの積上げではなく、意味合いのあるデータ構造)への取り組みが1つの方向性(ERP整備やEPM導入含む)。業務種別/会計期間/会社軸/勘定科目/事業セグメント/仕訳種別などのまとまりに分けて取り組むのだ。
明確なプロセス定義が難しい、に対しては、高度化と効率化を不可分なものと考え、拡張型の発想で業務デザインを組むことが最新のトレンドだ。打ち手行動、データ蓄積については、ビジネスユーザーやAIが物理的なDBを意識せず、ビジネス用語を介してデータがアクセスできる仕組み(対話型のAI要素)の発展とソフトウェアバンドル(仕組みを組み込んだソフト)の展開がトレンドといえる。
まとめは以下。
・ROIC経営を標榜しながらも“ROIC算出と可視化”がこれまでの状態であった。
・投資家視点では将来予測、社内視点では業績評価との兼ね合いも見ながら、企業は取組を進めている。
・ROIC経営を進めるに当たって、壁は“データモデルでタグ付けされた形でデータ利用できるか”“業務プロセスは拡張性を見てデザインしているか”“DX/AIソリューショントレンドを見越した要素技術のモニタをしているか”の3点が重要と考える。
ROIC経営がさらに進化することになり、経営管理の高度化やデータ整備が重要になる時代である。
■特別講演(1)
フジクラグループの財務戦略
~ 資本コストを意識した経営 - 持続的な成長フェーズに向けた戦略実行ポートフォリオマネジメント ~

株式会社フジクラ
取締役 CFO
飯島 和人氏
1989年4月、藤倉電線(株)、現・(株)フジクラに入社。2006年に経理部グループ長に就任後、Fujikura Automotive Europe S.A.U.、Nistica Inc.においてVice President & CFOを歴任し、海外拠点の財務・経営管理を統括。帰任後は経理部グループ長、次長を経て、2017年に経理部長に就任。2021年より執行役員コーポレートファイナンス部門長、2022年にファイナンス統括部長を務め、2023年6月からは執行役員CFOとして経営管理部門および不動産事業部門を管掌。同年6月より取締役CFOに就任し、財務戦略、経営管理高度化、事業ポートフォリオの最適化を推進。2026年4月から代表取締役CFO。
◎2019年度の経営危機~経営刷新/ROIC経営の実践
弊社は2019年度の経営危機を乗り越え、V字回復を果たしている。2025年度は売上高・営業利益は2期連続、経常利益は4期連続、当期純利益は5期連続での記録更新を見込んでいる。2025年度の見込みでは、ROEは32.2%、ROICは24.0%だ。
19年度は光ファイバ価格の下落、フレキシブルプリント基板(FPC)競争激化、新型コロナウイルス発症などを背景に業績が悪化。巨額の特別損失を計上し、自己資本比率は26.4%まで低下した(その後、25年度の自己資本比率は58.0%となる見込み)。
自己資本比率低下の主な要因は、需要変動に応じたコストコントロール及び在庫管理の欠如/新規事業への出資での入口・出口議論の欠落/設備投資時の投資回収検討及びその後のフォローアップ不足、であった。役員の構成を変え、一時的な中央集権により迅速な構造改革を実行した。
ROICは、企業が資本をどれだけ効率的に運用して利益を生み出しているかを正確に評価し、持続可能な成長と競争優位制を確立する目的で活用されるケースが多い。弊社の経営管理では、事業管理を目的に、資金運用に着目した場合の投下資本を見る計算式、
税引き後売上利益÷(売上債権-支払債務+棚卸資産+固定資産+投融資)を採用した。
22年からはROICツリー分析を開始、事業別ROIC管理を実践した。ROICは売上高実質利益率(収益力)と投下資本回転数(効率性)に分解できる。各項目別に数値を可視化することで課題発見及び打ち手に繋げることとした。
収益力面では、限界利益率管理の重要性(環境変化に追従できる事業管理を高める)に着目し、特別損失の発生を未然に防ぐようにしている。効率性の面では、債権回収は早く支払は遅く/最小限の在庫による事業運営でリードタイム短縮、材料調達量の検討/回収を意識した投資判断や既存設備の有効活用、を行っている。
企業価値を継続的に高めるためには、ROIC経営の浸透が重要。中期計画目標税引き後ROICを定め、安定的にPBR1.0倍以上を目指した。

◎投資回収検討の必要性
過去の投資案件において、フジクラでは投資回収の議論が不足していた。投資の成功確率を高めるために、22年度から投資申請時に投資予定設備ごとの事業計画を合わせて記載するように変更した。計画の精度の吟味、さらにDCF(ディスカウント・キャッシュフロー)による投資回収の検証を開始した。
投資回収を検討することで前提条件が可視化され、投資効果の定期的なモニタリングが可能になり、事業環境が変わった際には悲観シナリオやプランBも検討でき、対応力が高まる。
設備の更新や整備などの場合でも、立地(マーケット環境)の確認が必要になるので、これらの施策はROIC向上にも繋がり、結果として企業価値向上に繋がっていく。
■課題解決講演(2)
ROIC経営を支える財務インフラ改革
― リアルタイムデータで実現する投資意思決定の高度化

キリバ・ジャパン株式会社
Sales Director
下村 真輝氏
三菱UFJ銀行にて、大手日系企業のグローバル財務戦略のアドバイザリー業務に従事。その後、JVCケンウッドにてCFO補佐として、グローバル財務管理の基盤構築プロジェクトを推進した後、キリバ・ジャパンへ入社。資金効率化、財務リスク管理強化、財務ガバナンス強化、財務DX等、日系企業約300社へ助言を行なってきた。
ROIC経営は経営企画・FP&Aだけの話ではない。グローバルキャッシュのリアルタイム可視化なくして、真のROIC経営は完結しない。これが本講演のキーワード。
「Kyriba(キリバ)」は、財務業務のすべてをグループ・グローバルベースで統合する“トレジャリー・マネジメントシステム※”である。全世界で約9900の銀行との接続実績があり、さまざまなERP/会計システムとの連携が可能になっている。プラットフォーム全体に「トレジャリーAI」が組み込まれている。
※トレジャリー(Treasury)=資金管理やリスク管理を担当する部門や機能のこと。

ROIC=NOPAT(税引き後営業利益)÷投下資本(有利子負債+株主資本)
分子であるNOPATの改善。これは売上・利益の増加/CCC※短縮による運転資本効率化/コスト削減・銀行手数料削減、がもたらし、主に経営企画やFP&Aが担当する。一方、分母は投下資本の圧縮。遊休現預金(無駄な現金)の削減/有利子負債の最少化/グループ内資金環流による外部借入削減であり、分母の部分がトレジャリーの主戦場である。
※CCC=キャッシュコンバージョンサイクル
金利上昇/円安継続/地政学リスク上昇、の現代にあっては、「見えないキャッシュ問題」は構造的な大きなリスクだ。エクセル・メール集計は届く頃には“古新聞”であり、リアルタイムの経営判断には使えない。また、ERPレポートは拠点・通貨ごとにサイロ化されておりグループ全体の俯瞰ができない。把握できないキャッシュは管理できない。管理できないキャッシュはROICを静かに毀損し続ける。
グループ内で余剰資金を把握・環流させるだけで、外部借入を削減してROICの分母を直接圧縮できるにもかかわらず、仕組みがないために放置されている。これが日本企業に共通する「見えないROIC毀損」の実態だ。
CCC=売上債権回転日数+棚卸資産回転日数-買掛債務回転日数
あるべきキャッシュ環流サイクルは、CCC改善金利上昇⇒海外・子会社キャッシュ創出/グループ内環流⇒配当、減資、プーリング、インターカンパニーローン/有利子負債返済or自己株買い資金へ⇒ROICの分母を圧縮、である。
このサイクルを機能させる前提条件は、「どこに、いくらのキャッシュがあるか」をリアルタイムで把握できる仕組み=トレジャリーマネジメントだ。CCC改善はゴールではなく、出発点にすぎない。
KyribaのソリューションはCash & Debtのグループ・グローバル一元管理だ。ROICへの効果としては、キャッシュの可視化により、遊休資金をデータに基づき即時特定⇒投下資本の圧縮/有利子負債の一元管理により、無駄な借入を削減⇒金利コスト低減⇒NOPAT改善/資金環流により、外部借入を内部資金で代替⇒有利子負債削減。CFOはKyribaによってグループ全体のCashとDebtをオンデマンドでリアルタイムに見られるようになる。これがROIC経営の“財務インフラ”の本質だ。
そして、TAI(トレジャリーAI)はCFOの“情報の速度”と“意思決定の頻度”を変える。TAI活用で、自然言語で即時回答/チャート生成・エクスポートまで対応/リアルタイムデータに基づく日次の意思決定/余剰資金を即座に特定し投資機会を提案/流動性ショートを事前検知⇒計画的対処、が実現する。
従来は月次でしか見直せなかった資本配分の判断を日常的・リアルタイムに行えるようになることで、遊休資本の最少化とリターンの最大化を同時に実現する。※AIに入力するプロンプトと回答例紹介あり
TAIのROICへの複合効果は、遊休資金の削減⇒投下資本の圧縮⇒ROIC分母の縮小⇒ROIC改善(分子・分母の両面から)である。TAI活用で業務効率化から戦略的意思決定へ。TAIは財務組織全体のパフォーマンスを最大化する。
KyribaのトレジャリーデータをFP&Aが受け取り、ROICツリーに組み込む。これが「財務データを経営判断につなぐ」実務バトンタッチの姿。「どこに誰がいつ何をするか」が明確になることで、部門の壁を越えてROIC経営が動き始める。
可視化⇒最適化⇒高度化、の各フェーズはあるが、まず一歩目は「全世界のキャッシュをリアルタイムで可視化する」。これだけで、多くの日本企業はROIC経営の質を一段引き上げられる。トレジャリーなくして、ROIC経営は完結しない。
■課題解決講演(3)
持続的な企業価値向上を実現するためのROIC経営の実践
~ AI×CCH Tagetikによるグローバル経営管理の高度化 ~

Tagetik Japan株式会社
ソリューション&サービス事業本部
執行役員 本部長
久保 誠一氏
CCH Tagetikは、経営管理専門のソリューション。グローバル企業のCFOや経理・経営企画、事業部のリーダーが、より良い情報に基づいた迅速な意志決定で戦略を推進するための、データドリブンな経営管理プラットフォーム(EPM/CPM)である。Tagetik Japanの日本でのビジネスパートナー数は80社以上で、導入コンサルタントは1000名以上。日本の売上Top10企業のうち約半数に採用いただいている。
弊社は持続的な企業価値向上に向けて、経営管理情報の統合管理基盤+幅広い管理プロセスを支えるアプリを提供する。

◎ROE・ROIC向上を達成する企業価値向上プロセスと経営管理基盤
PBR1倍超え、ROE8%以上の企業は全体の4割強であり、PBR/ROEの改善を求められる企業が多いのが現状だ。ROE8%未満の企業は資本効率性を高めた事業運営ができていない/ポートフォリオの見直しが進んでいない可能性があり、PBR1倍割れの企業は価値創造をステークホルダーに対して十分に開示できていない可能性がある。
PER×ROE=PBR。中長期での成長戦略と事業活動を通じた効率的な利益獲得の両輪を回していくことが、企業価値向上へとつながる。持続的な成長や企業価値向上の実現に向けたポイントは、A.価値創造ストーリーから短期業績管理への連動 B.投資管理と業績管理の連携 C.効率的・効果的な開示・対話、の3点だ。
従来の短期視点から中長期視点への転換が求められる中で、組織・プロセス・システムといった仕組みを整備していかなければならない。課題は、開示における複雑性・要件の増大/中長期~短期計画の包括的なマネジメントプロセスの不在/戦略策定・意志決定と業績管理の分断/システムサポート・データ化の不足、が挙げられる。
価値創造ストーリーを起点に、経営・事業戦略~中計~年計~推進~開示をプロセスとして整備することが求められる。実現化に向けた経営管理基盤視点では、従来の組織別予算・業績管理の領域に対して、機能の拡張やデータを連携していく変革が必要だ。先述のA/B/Cが実現ポイントとなる。
CCH Tagetikは、データの統合管理や計画~推進管理~開示までの包括的なプロセス、実現ポイントA/B/Cをワン・プラットフォームで展開する。

◎CCH Tagetikによる実践例
事例紹介。年商2兆円超の電気機器メーカーは、CCH Tagetikを導入しグローバル全体の連結・予算管理の仕組みを刷新。ROICにより事業ポートフォリオと予測重視のグローバル経営管理を行っている。CCH Tagetik選定の理由は、管理連結と予算管理などのグローバル要件を“ワン・プラットフォーム”上で実現/財務のみならず非財務や明細情報を一元化/複雑な配賦計算など要件に対する充足度、だ。
同社は経営情報を一元化し、ROICツリーによる“組織への浸透と改善”を行っている。経営層から事業部そして現場部門まで、改善にむけてのコミュニケーションの促進、ドリルダウン分析を行っている。ソリューションのポイントは、グローバル経営の可視化をゴールにERPの刷新と統合を待たずに経営管理領域から可視化を実現/強力なシステム連携機能によりERPの段階的な移行に合わせて柔軟に連携/オペレーショナルな明細情報を取り込むことで要因分析が可能な経営情報基盤の構築。
また、ROIC経営の実践と改善に向け、階層ごとのPDCAサイクルを促進。(1)計画策定⇒(2)実績管理⇒(3)比較分析⇒(4)施策管理というサイクルを回しながらROIC経営をドライブしていくための各種ソリューションをCCH Tagetikは提供する。
先述のA.中長期~短期計画の連動/B.投資管理と業績管理の連携。これらのCCH Tagetikでの実現=中期計画-投資管理-業績管理の統合マネジメントプロセスを紹介する。下記のスライド参照。※デモンストレーション動画あり。

C.効率的・効果的な開示・対話=生成AIによる次世代ナラティブ・レポーティング(開示・報告義務)について。高まる規制要件、増大するデータ量と細分化するデータ粒度、拡大するステークホルダー。グループの情報開示はより複雑となっており、企業はデータを統合しつつ増大する要件に対応することが求められている。
CCH Tagetikでは、データ更新および生成AIによる文書の自動作成、生成AIを活用した統合報告書等のレポート作成におけるコラボレーションやログ追跡が可能だ。効率的・効果的なレポート作成に寄与する
AIを活用し業務の自動化、生産性向上を実践している企業は増えている。CCH Tagetikは、AIドライバー分析と予測・シミュレーションによる精度向上にも寄与する。例えば、対象となるKPIのドライバーとの相関モデルを機械学習を通じて作成/影響度の高いドライバーを分析⇒データ起点での要因分析/過去実績から学習したモデルに基づいて予測およびシナリオを変更しながらのシミュレーション⇒予測精度向上と施策の立案、ができる。
エージェント型AIは経営管理業務領域における生産性を飛躍的に向上させる。例えば異常値検知、要因分析、シナリオシミュレーション、財務影響予測、改善アクション提案といったKPI監視と提案に活用できる。ユースケースが貯まってきており、本年後半から来年にかけてエージェント型AIは本格活用できるようになるだろう。持続的な企業価値向上を実現するために、CCH Tagetikによる経営管理や、組み込み型AI・エージェント型AIを活用していただければ幸いだ。
■特別講演(2)
資本コストや株価を意識した経営の現在地と今後
(企業の進捗と投資家の評価)

株式会社東京証券取引所
上場部企画グループ統括課長
池田 直隆氏
2005年4月(株)東京証券取引所入社。入社後、上場審査部を経て、10年6月より現職。市場区分の見直し・コーポレートガバナンスの充実に向けた検討、スタートアップ育成に係る制度整備など、東証における上場制度全般に係るルールメイク等を担当。
2022年4月に、プライム市場/スタンダード市場/グロース市場に区分が見直しされた。その後、見直しの実効性向上のため、投資家の期待に応えて企業価値向上に取り組むことや少数株主保護など、上場会社としての責務を果たしていただくための施策を各市場区分において推進している。
23年3月には、プライム市場とスタンダード市場の企業に「資本コストや株価を意識した経営の要請」を行った。関連の施策として「成長分野への投資」の加速(コーポレートガバナンスコード改定と連動)/企業の取り組みのサポート(継続)/企業・投資家双方の目線合わせ/開示していないプライム企業に、理由・方針の開示を促す、などを引き続き行っている。
2025年11月末の開示の状況。プライム市場の93%(1493社)、スタンダード市場の54%(836社)が開示している(検討中含む)。また、プライム市場の67%、スタンダード市場の23%が開示内容をアップデートしている。
プライム市場における市場評価・資本収益性の要請前後の変化は下記スライド参照。多くの企業がROE8%、PBR1倍前後に存在する。

日本企業の資本効率・市場評価は、全体的に改善傾向にある一方で、諸外国と比較すると依然として上昇余地は大きい(ROE/PBRとも)。なお、市場区分見直し後、投資家の期待に応えた取組みを進める企業の株価パフォーマンスは好調に推移している。例えば、プライム市場の事例集(後述)掲載企業の株価は+157%、開示済企業は+83%だ。一方、検討中・未開示の企業は+27%にとどまっている(22年4月1日と25年12月30日の比較)。
25年1月以降に意見交換を行った、アクティブを中心とした海外・国内機関投資家(約200社)からの主なフィードバック(抜粋)は、以下。
・経営者の理解が進んでおり、企業の意識変化を感じる。株主と企業の共通言語が形成されている。
・多くの企業が投資家との対話を重視、IR・対話の質も着実に向上。
・数十億円規模の企業の意識も変わってきており、中長期的な資本政策の策定に取り組もうとする企業が出てきている。
・ROE8%、PBR1倍を超えていればひと安心という意識の企業もおり、取組みを進める企業とそうでない企業の間で差が広がっていることは大きな課題。
・更なる改善の余地がある企業が、PBR・ROEを少し向上させただけで終わりとならないように。そこに満足せずに上に上にと目指していってほしい。
・資本コストに対する理解は進んできている一方で、それをいかに経営に反映させるかという意識は依然として希薄。不採算事業からの撤退や、成長事業への資源配分といったドラスティックな経営判断がなかなかできていない。
・自社株買いが増えている印象。場当たり的な株主還元策は、株価に対して意味をなさなくなってきた。目指すバランスシートの姿やキャッシュ・アロケーション方針をしっかり考えるところから始めるよう意識づけを。
25年4月実施の弊社のアンケートでは、上場会社が直面する課題として以下が多く挙げられた。
・検討のリソース、体制が不足している/社内での検討、調整に時間がかかる(組織・体制面)
・中長期的な資本政策の策定が難しい/自社の資本コストの把握が難しい(取組み内容)
・機関投資家との接点が不足している/ビジネスモデルや課題について機関投資家側の理解が十分ではない(投資家との対話)
・どのように開示すれば投資家にうまく伝わるかわからない
多くの投資家は、経営層が対話に関与できていない、対話内容の経営層での共有が不足していると考えている。その一方で、企業から見ると投資家側の対話の姿勢にも、経営トップに対して細かい目先の業績の質問に終始する、企業価値の向上に向けた対話ではなく単なる情報収集にとどまる等の指摘が存在する。
また、資本コスト経営を推進する上で直面する課題として、ROICなどの資本効率指標が社内で浸透していない/投資判断や資源配分と資本コストの連動が弱い/経営層と現場の意識ギャップ、が挙がった。また、他社の社内意識改革や社内浸透、中長期的な資本政策の策定を参考にしたい、という結果が出た(日本経済新聞社の調査)。
CFOへの課題調査では、成長を牽引する経営人材の確保・育成/蓋然性の高い中期経営計画や長期戦略の策定/ROEや資本効率とリスクを伴う投資とのバランス、が多く挙がった(KPMGジャパンの調査)。

2025年12月に当社は「資本コストや株価を意識した経営」に関する事例集を公表した。(1)「課題解決に向けた企業の取組み事例集」。(2)「投資家が評価する好事例集(2025年版)」の2つである。
(1) は多くの企業が直面する課題(社内の意識改革・意識浸透、資本コストの把握・活用など)を乗り越えた企業6社にインタビューを行い、取組み過程をとりまとめたもの。(2)には33社を掲載。経営資源の最適配分に向けてBSマネジメントやキャッシュ・アロケーションの方針を具体的に示す事例や、初回開示後も継続的な課題分析や投資家との対話を通じて取組みをブラッシュアップする事例を掲載している(URL参照)。https://www.jpx.co.jp/news/1020/20251226-01.html
2026年3月3日(火) 会場対面・オンラインLIVE配信でのハイブリッド開催
source : 文藝春秋 メディア事業局

