【イベントレポート】文藝春秋サイバーセキュリティ月間連動企画 サイバーセキュリティのトップアジェンダ 第二弾 ~セキュリティの臨界点 -AI攻防、ランサムウェア、サプライチェーン機器の中での生存戦略~

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〇開催趣旨

――AI攻防の激変期に、企業は何を守り、どう備えるべきか

2026年、サイバーセキュリティはこれまでの延長線では捉えきれない転換期を迎えています。生成AIやAIエージェントの急速な普及は、業務効率化や価値創造を支える一方で、攻撃者側にも強力な武器を与え、攻防の構図を一変させました。高度化・自動化した攻撃、精緻化するフィッシング、そして爆発的に拡大するランサムウェアの脅威。防御側は従来の仕組みでは追いつかず、対応の遅れが企業価値を一気に毀損するリスクはかつてないほど高まっています。

さらに、企業のバリューチェーンは広範かつ複雑化しており、単体の強固な防御だけでは不十分です。委託先・協力会社・クラウドベンダーを含むサプライチェーン全体のセキュリティ確保は、もはや経営責任の核心テーマとなりました。加えて、AIエージェントによる業務自動化が進む中で、意図せぬ情報漏洩や、AIが誤った判断を下すリスクへの備えも不可欠です。

こうした状況下、求められるのは「ゼロトラスト」を前提としたアーキテクチャの刷新と、システム脆弱性の継続的な管理、そしてインシデントが発生した際の迅速な対応体制の構築です。同時に、技術だけでなく、組織と人材の変革も必須です。セキュリティを専門部門だけに委ねる時代は終わり、全社員がセキュリティリテラシーを持ち、事業部門が主体的にリスクを理解しマネジメントできる組織文化が求められています。

本カンファレンスでは、「サイバーセキュリティのトップアジェンダ」と題し、AI時代の新たな脅威構造、ランサムウェアの最新動向、サプライチェーン全体のセキュリティガバナンス、ゼロトラストの実装、そして企業が取り組むべき組織変革と人材戦略までを、第一線の専門家とともに徹底的に議論します。

“これからのセキュリティ対策”への答えは、もはや単一の技術ではありません。AI時代のレジリエンスを備えた、持続可能なセキュリティ戦略とは何か。2026年の企業に求められる備えを、多角的に考察した。

■オープニング・キーノート

2026年のセキュリティアジェンダ ~攻撃の多様化、大規模化 - ランサムウェア、サプライチェーン攻撃、生成AI攻防の最先端~

東京電機大学 名誉教授
兼 東京電機大学サイバーセキュリティ研究所 客員教授
佐々木 良一氏

1971年日立製作所入社。システム開発研究所にて、システム高信頼化技術やセキュリティ技術(84年より)等の研究開発に従事。同研究所部長や主管研究長兼セキュリティシステム研究センタ長を歴任。2001年4月から18年3月まで東京電機大学教授、18年4月より特命教授、20年4月より客員教授、22年4月より現職。

◎サイバー攻撃の2026年の動向

昨今、仮想通貨(暗号資産)で580億円相当の不正流出が起こり、ランサムウェアにおける身代金の要求額では10億円を超える例や損害額が数十億円に達するものもある。被害形態は多様化しており、機密性の喪失(個人情報の漏洩など)、完全性の喪失(データの改ざんなど)、可用性の喪失(システムダウン)などが起き、問題になっている。

最近のランサムウェアは、暗号化による業務妨害+データ公開の2重脅迫型が非常に多い。また、2重脅迫+DDoS攻撃併用の3重脅迫型や、実際には暗号化せず、「盗んだ」と主張して脅迫。コストを抑えつつ心理的圧力を最大化するノーウェアランサム、そして、RaaS(Ransomware-as-a-Service)の利用も増えている。
※DDoS=Distributed Denial Of Service。分散型サービス不能攻撃。

RaaSにより高度なランサムウェアの利用が可能となり、一人の攻撃者にとっての低コスト化や多数の攻撃者による攻撃の大規模化が起こっている。また、復旧に要する時間も増えている。2024年のKADOKAWAの事案では復旧に2カ月以上かかり、約36億円の特別損失を計上した。

ランサムウェア被害データの復元法としては、(1)バックアップやクラウドストレージから戻す (2)ボリュームシャドウコピーで復元する (3)削除ファイルの復元ツールを使う (4)メモリー上のデータのダンプをとることによる暗号かぎの取り出し、などがある。その他、身代金を払う方法やアナログデータから復元する方法もある。

身代金については、容認する考え方と否定する考え方がある。米国でもさまざまな考えがあり、昨今の日本では身代金を払わない方向にある。いずれにせよ、サイバー攻撃を想定した業務継続計画(Business Continuity Plan=BCPの策定・推進は必要だ。

なお、攻撃の対象は自動車、電子掲示板などさまざまなIoT機器に拡がってきている。ウエブカメラ、家庭用ルータなどのIoTを他のIT機器へのDDoS攻撃への踏み台として利用する例もある。サブライチェーンへの攻撃例も多々あり、例えばトヨタ自動車の関連企業が部品提供が不可能となったため、トヨタ本体の14工場が稼働停止となった。

サプライチェーン全体のセキュリティは、最も弱い組織のセキュリティに依存する。弱い組織を排除し、弱い組織を強くする対策が必要だ。経済産業省は「サイバーセキュリティ経営ガイドライン」を出しており、「経営者は、IT活用を推進する中で、サイバーセキュリティリスクを認識し、リーダーシップによって対策を進めることが必要」「自社は勿論のこと、系列企業やサプライチェーンのビジネスパートナー、ITシステム管理の委託先を含めたセキュリティ対策が必要」などと示している。

攻撃者も多様化している。Verizonの2019年の調査によると、攻撃の動機は金銭目的が86%、スパイ活動が13%。攻撃者の種類は犯罪組織が55%、国家関連、システム管理者、エンドユーザーがそれぞれ10%。サイバー犯罪は、麻薬売買などと並んで割のよい犯罪だと言われる。また、国家が関与するサイバー攻撃にはさまざまな目的や手法があり、それらには国家として対応する必要がある。

◎ゼロトラスト/AIの進展とセキュリティ

ゼロトラスト(Zero Trust)とは「誰も信用しないことを前提とするセキュリティモデルだ。ネットワークの内外を問わず、すべてのアクセスを検証・制御することを基本としている。2022年以降、実装と成熟期に入っている。

リモートワークの普及により、社外から社内システムへアクセスする機会が増加した。クラウドサービスの利用拡大により、境界のないシステム構成により従来の防御モデルが限界にきた。また、高度なサイバー攻撃の増加により、内部不正やマルウェア感染など内部からの脅威も重視する必要が生じた。これらによりゼロトラストが必要となっている。

ゼロトラストの基本原則は以下。
すべてのアクセスを検証する(Never Trust, Always Verify)
最小権限の原則(Least Privilege Access)
マルチファクタ認証(MFA)の活用
継続的な監視とログ分析 など

ただし、ゼロトラストは決してゼロリスクではない。リスクアセスメントやリスクコミュニケーションが今後、より重要になる。

AIとセキュリティの間には次の4つの観点がある。(1)Security Attack using AI(AIを利用した攻撃) (2)Security Attack by AI(AI自身による攻撃)(3)Security Attack to AI(AIへの攻撃)(4)Security Measure using AI(AIを利用したセキュリティ対策)。

近年、生成AIが注目を浴びており、生成AIが普及することによって注意すべき点がどのように変わるかを明確化する。

(1)AIを利用した攻撃については、マルウェアなどの不正ソフトの容易自動生成/攻撃用ツールの生成AIによる高度化/フェイク画像・動画の容易生成などの技術的リスクがある。
(2)AI自身による攻撃については、人間を上回る能力を有する機械が誕生し、将来的に人間が絶滅させられるのではないか(AIの反乱)、という懸念が出ている。

今後、大規模言語モデルを利用したAIエージェントが普及すると考えられる。生成AIは“思考・言語生成のエンジン”であり、AIエージェントは“目的を持って行動する存在”だ。この2つが組み合わさることにより、AIの自律化が急速に進展する。したがってAI自身による攻撃への対応はより重要になる。

(3)AIへの攻撃については、システム停止や情報盗み出しなどの従来の攻撃/偏った訓練データを意図的付与/生成AIへの入力(プロンプト)に悪意のある指示をする/学習モデルへのデータ入出力を分析することにより同等のモデルを作成する攻撃、などがある。

(4)AIを利用したセキュリティ対策では、例えば機械学習を利用した標的型攻撃用C&Cサーバの自動判別システムを研究してきた。外部ウェブへのアクセスはプロキシサーバ経由とし、ブラックリストを設け、不審なアクセスを検知・防止する。ブラックリストだけでは抜けがあるので、機械学習を用いて新しい不正サイトへのアクセスをブロックする技術もある。

サイバーセキュリティ対策に関しても、データが十分あるならAI(含む生成AI)は有効。ただし、攻撃の動的変化には対応が必要だ。サイバーセキュリティ対策のAI応用は今後も重要な研究分野である。サイバー攻撃は今後、ますます厳しくなる。組織として適切な対応をとることがさらに重要になる。

■課題解決講演(1)

セキュリティ対策評価制度の最新動向から見えた
ランサム攻撃を“防ぐ”ための強化ポイント

株式会社ネットワークバリューコンポネンツ
ソリューション企画本部 ソリューション企画本部 マネージャー
テクニカルマーケティング セキュリティエバンジェリスト
佐藤 佑樹氏

(株)ネットワークバリューコンポネンツにエンジニアとして新卒入社。代理店の製品エンジニアの立場でFireEye(現Trellix)やCarbon Black(現Broadcom)などのセキュリティ製品を中心とした導入構築や製品保守、技術サポート業務を担当。新たなセキュリティサービスの立ち上げやセキュリティアナリストとしてのセキュリティサービス運用業務にも従事。現在はエンジニアとしての経験を活かし、テクニカルマーケティングとして新規取り扱い製品の検討や取り扱い開始後の立ち上げ業務を担当。こうした業務の中で得られる最新の情報について、講演者としてさまざまな講演会やセミナー、ブログやお客様との打ち合わせを通して発信するセキュリティエバンジェリストとしての業務にも従事。

◎昨今のサイバー攻撃概況/セキュリティ対策評価制度から防御方法を考える

サイバー攻撃は年々増加し、日々高度化している。情報セキュリティの脅威としては、ランサム攻撃による被害/サプライチェーンや委託先を狙った攻撃/AIの利用をめぐるサイバーリスク、システムの脆弱性を悪用した攻撃などが上位に挙げられる。

特にランサム攻撃対策は、重要な経営課題の1つだ。最近はサイバー攻撃が高度化しており、EDR回避型攻撃が増加している。
※EDR=Endpoint Detection and Response。エンドポイント上で発生する脅威の検出・調査・対応を可能にするセキュリティ対策

多くの経営者やセキュリティ担当者の本音は、「ランサム攻撃被害を受けたくない。検知ではなく防御がしたい」だと考える。

経済産業省が検討しているセキュリティ対策評価制度は、2027年3月までの開始を目標に経済産業省が主導して検討中の「組織の情報セキュリティ対策情報の“見える化”」を目的とする評価制度だ。星3、星4の具体的な要求事項・評価基準が公表されている。すでに実証実験も行われており、現状の検討基準に対し遵守率の低い領域が可視化された。

その中でも、ID管理とアクセス制御関連の新しいソリューションに着目したい。

各パス(経路)の遮断が重要なのだが、ラテラルムーブメントにおいて“認証”が突破されている。攻撃者による正規ID悪用を防御すれば、被害の最小化と攻撃の遮断を実現できる可能性が高い。その防御に有用なのが、多要素認証(MFA)だ。ランサム攻撃対策のために認証を強化する多要素認証を導入したい。

しかし、MFA適用の最大の障害は、皆様の組織で長らく使われているであろうActive DirectoryによるAD認証である。技術的な仕様のためにAD認証へのMFA適用ができないことが多いのだ。ただし、MFAを仲介する外部の仕組みで解決できる可能性がある。そのソリューションが、統合アイデンティティセキュリティソリューションSilverfort」である。

◎Silverfortを活用した認証強化方法

ADに専用のソフトウェアを導入することによるSilverfort利用で、既存の業務システムやActive DirectoryをそのままにMFAの適用が可能になる。

インラインでリアルタイムに認証の可視化・分析・制御(不審な認証検知:ITDR)を行い、攻撃者からの正規IDを悪用した不審な認証の検知+“防御”が実現する。ITDRでの検知に応じた動的な制御が可能となるのだ。
※Identity Threat Detection & Response

ランサム攻撃への“防御力”強化のポイントは“認証”での対策である。Silverfortは、課題であるAD認証へのMFA提供を実現し、ITDRと組み合わせた動的なアクセス制御を提供する。

■特別講演(1)

2024年秋、ランサムウェア被害の教訓
~当事者として体験したサイバーインシデントの全容~

株式会社関通(現:関通ホールディングス株式会社)
代表取締役社長(現:代表取締役会長)
達城 久裕氏

創業から40年以上、EC物流のパイオニアとして業界を牽引。「準備・実行・後始末」を座右の銘に掲げ、時代の変化を先取りしながら柔軟な経営を続けてきた。ECバックヤード運営、WMS開発・販売を軸に事業領域を拡大中。2024年にはサイバー攻撃という逆境を経験しながらも、迅速な復旧と経営判断で危機を乗り越えた。自らの経験を業界の未来に還元し続けている。

弊社は2024年9月にサイバー攻撃を受け、ランサムウェアにサーバーをブロックされた。全拠点約10万坪の物流倉庫が機能停止、会計データや在庫データが喪失、作業員800名の作業が喪失、などの人的・業務的被害が生じた。社長の私の心理的影響は大きく、倒産の恐怖も頭をよぎった。被害総額は約17億円。

復旧・再発防止のために、システムを全部放棄・廃棄緊急対策本部の設置(意思決定、指揮命令系統の一本化)/お客様・関係先への連絡窓口設置個人情報保護委員会対応、などを決めて実行した。

緊急対策本部を率いる社長として、20億円の資金調達を行った。風評被害は社内から発生する(個人情報が流出していなくても、保護委員会に届け出た時点で“流出”の風評が立ってしまう)。風評被害防止のために全拠点の全社員に説明を尽くした。そして管理職への残業代支給、食事補助、ホテル貸し切りなどを行い、社員の頑張り・努力を速攻でお金で解決した。

復旧のすべてにおいて出し惜しみをしない/復旧の専門家を日頃から探す/全責任は社長にあることを口で言う/絶対に復旧できる。その日を明確に信じて行動、を考え実行した。幸い、金銭面を含む先述の対策により風評被害はほぼなかった。解約も2社にとどまった。

既存の専門家は調査主体であることがよく分かった。そして、調査関連の費用対効果は低いと実感。調査より復旧が重要と認識し、復旧の専門家として私たちの得た経験値を生かすために「サイバーガバナンスラボ」を独立した会社として立ち上げた。

バックアップは重要である。完全に別環境にバックアップを置くと復旧は早い。攻撃~復旧の時間が短くできれば、攻撃の無力化が成功する。

サイバーガバナンスラボは、サイバー攻撃に備え、貴社の事業継承を保証するパートナーとなる。繰り返すが、サイバー攻撃対応は最重要経営課題の1つである。被害者であっても、会社としての対応を間違えると図らずも加害者になってしまう。

わが社は大丈夫、という心の隙が最大の脆弱性である」。サイバー攻撃に対する準備を怠らないようにしていただきたい。

■課題解決講演(2)

戦略的第三防衛戦”:異次元の攻撃に惑わされない
Red Team演習が仮想敵を暴き、組織の盲点を洗い出す

Splunk Services Japan合同会社
セキュリティ・ストラテジスト
矢崎 誠二氏

25年以上に及ぶサイバーセキュリティの実務経験を通して今日におけるユーザの課題解決に向けたご支援を続けております。ペネトレーションテスト、脆弱性診断、SOC構築支援などのサービスを通した幅広い業界へのサポート、IDS/IPS構築、SIEM実装などの設計・構築を推進してきた経験を通してお客様に安心・安全をお届けしたいと考えております。

ランサムウェアによるインシデントは増加の一途。2024-25年には8秒に一回のランサムウェア攻撃が発生している。サイバー攻撃は“Black Friday”化していると言える。低価格・大量・お祭り騒ぎになっているのだ。AIを利用した攻撃の迅速性、正確性の向上などによるシステマイズが、規模の増加や攻撃成功の確率を高めている。

サイバーセキュリティの潜伏期間は劇的に短くなっている。防御側の検知機能が向上する一方、気づかれずに潜伏する期間は短縮されて、短期決戦化が進んでいる。攻撃成立高速化の背景には、攻撃戦術のステージごとに用意される演習ツールが多種多様化していることがある。

防御目的からリスク管理を通じた価値創造と保護の“Three Line Model”を紹介しよう。第1線の役割=顧客に対する製品やサービスの提供とリスクの管理、第2線の役割=リスクに関連する事項について専門知識、支援、監視の提供と意義申し立て、第3線の役割=目標の達成に関連する全ての事項について、独立した客観的なアシュアランスと助言

第1線と第2線がマネージメント=組織体の目標達成のための(リスクの管理を含む)活動で、第3線が内部監査=独立したアシュアランスの実施、だ。

Blue TeamとRed Teamの2つのセキュリティチームについて考察したい。前者は疑似攻撃を実行し、後者は防衛責任を担う。

Red Teamを外部にアウトソースする場合が多い。Red Team演習とは、現実世界の状況を反映した演習であり、組織のミッションおよび/または業務プロセスを侵害しようとする模擬的な敵対的試みとして実施され、情報システムおよび組織のセキュリティ能力を包括的に評価するものだ。

先述の第3線の役割が、AIによる支援とRed Team演習となる。擬似的に攻撃してもらわないと防御性能の評価はできない。建物を建てたら揺らしてみなければ堅牢性は分からないのだ。第三者(外部アシュアランス提供者)からしっかりと確認してもらうことが大切である。

Red Teamはどこまで侵入行為を拡大できるか、どんな情報を獲得できるかを演習で行う。Blue Teamは第1線の保護領域を守り、第2線として監視も行う。第3線として、AI駆動型内部監査を行う。AIが経営陣から独立していることはその客観性、権威、信頼性において非常に重要である。
※Red Team/Blue Team/AI利用の“Splunk Enterprise Security”の演習のデモンストレーション画像と解説あり

Splunkは脅威の検出、調査、対応(TDIR)ワークフローを統合。アナリストに最適なエクスペリエンスを提供する。AIを用いた新防衛対策の具体化にお役立ていただければ幸いである。

■課題解決講演(3)

Microsoft365に潜む死角をなくす
―サイバー攻撃から会社を守る必須ポイント
~活用が進むクラウドサービスで“絶対に押さえたい“ポイントを解説!~

エムオーテックス株式会社
マーケティング本部 プロダクトマーケティング部 部長 兼
LANSCOPE エンドポイントマネージャー クラウド版
プロダクトマーケティングマネージャー
武藤 諒氏

2012年新卒入社。入社3年目からLANSCOPE エンドポイントマネージャー クラウド版の営業・マーケティング・サポート業務に従事。2021年4月よりプロダクトマーケティングマネージャーとして、プロダクトの販売計画やロードマップの策定を推進。

組織の半数以上は21個以上のSaaSを利用、その中でもMicrosofth365(以下、M365)は特によく利用されているSaaSのひとつだ。近年、M365のアカウントに対する不正アクセスによるインシデントが多数発生している。社内不正事案では「情報の持ち出し」が特に多い。

IT資産管理ツールなどを利用して、情報流出経路への技術的対策を実施する例は多い。データの保存・共有にあたってはクラウドサービスを活用することが多いため、M365への対策(管理)も必要だ。

脆弱性診断サービスを実施するセキュリティエンジニアが推奨するチェックポイントは、多要素認証の推奨外部との情報共有設定(パブリックアクセスの禁止、利用状況の把握)/ゲストユーザーの設定(利用状況を把握し定期的な棚卸しを推奨)、である。

当社の調査では、M365利用組織の40%以上が組織外ユーザーへデータ共有が可能な状態。また、多要素認証・ゲストユーサー招待の制限は半数・半数以上が実施していない状況である。かなりのハイリスク状態である。

フィッシングおよびパスワード攻撃、マルウェアの感染など、不正アクセスの手口は多々ある。兆候としては(1)不審なログインが複数回に渡って行われている (2)ユーザーがMicrosoft 365のアカウントにアクセスできない (3)作成した覚えがない不審なメールが送信されている (4)特定のアカウントから重要データが大量にダウンロードされている、などだ。

すぐにできる対策は、2つ以上の異なる要素を用いて認証を行う「多用途認証(MFA)の有効化」である。M365のライセンスにより設定できる内容が異なるため、各社にて確認されたい。MFAで低減できるID侵害リスクは99.2%、とマイクロソフトは発表している。

ログイン時のパスワードポリシーを設定し、不正アクセスされにくいアカウントにすることも効果的だ。M365の監査ログをチェックすることで不正アクセスの兆候を検知することもできる(MS PurView上で設定を有効にすることで確認可能)。また、SharePointやOneDriveの初期値は、全てのユーザーが全てのデータにアクセスできる状態だ。特別な理由がない限り、パブリックアクセスを禁止する設定を推奨する。

Teamsでは、取引先・協力会社等をゲストユーザーとして招待可能。招待されたユーザーは、組織内と同等の権限を持つことが可能なため、注意が必要である。また、初期設定は「ゲストユーザーがゲストユーザーを招待できる」設定となっているため、設定の見直しを検討したい。

不要なアカウントが残り続けることがリスクになる。(1)不要なアカウントの削除 (2)サービス毎のゲストユーザーの設定 (3)ゲストユーザーの棚卸し(長時間利用のないアカウントについては削除や無効化を定期的に実施)、が重要だ。

◎さらに踏み込んだ対策を!MOTEXが提供するソリューション

前述のように、正しい設定で運用を行い、利用状況を見える化する体制の構築が必要だ。(1)利用ルールの策定 (2)M365設定の見直し (3)利用状況の見える化、である。弊社では(2)と(3)の課題解決のための2つのセキュリティ・ソリューションを提供している。

総務省ガイドラインでは設定診断サービスの活用を推奨しているが、実際に受けたことがあるのは全体の33%である(弊社調べ)。弊社はお客様のクラウド環境の設定において、診断結果の概要や不適合項目の一覧、推奨対応優先度、不適合となった根拠やリスク、対策方法の詳細をまとめたドキュメントを提供する。30の診断項目で36万円(税抜)のプランから用意している。

M365は機能のアップデートが頻繁に行われており、定期的な設定値の確認は欠かせない。また、先述のMS PurViewにより監査ログの確認が可能ではあるが、ログそのものが見づらく、読み解くことが難しい。「LANSCOPE エンドポイントマネージャー」は、PCやスマホをクラウドで一見管理できるIT活用を推進資産管理・MDM機能に加えて、組織で活用が進むM365の利用状況を見える化する。

監査ログを見やすいよう整形し、管理コンソール上で確認できる。過去2年間分のログをまとめてCSV形式で出力することも可能だ。ゲストユーザーの最終利用日時などを簡便に把握することで、棚卸し業務の効率化にもつながる。

■クロージング・キーノート

サイバーセキュリティと経営責任について
~事業継続を脅かすランサムウェア被害の実態~

八雲法律事務所
弁護士(日本・カリフォルニア州)
山岡 裕明氏

内閣サイバーセキュリティセンター(現国家サイバー統括室) タスクフォース構成員(2019~20、21~22、25)、「サイバー安全保障分野での対応能力の向上に向けた有識者会議」構成員(24年)、国家サイバー統括室「重要インフラサイバーセキュリティ研究会」構成員(2025年~)、「情報セキュリティ文化賞」受賞(24年)。主な著書として『実務解説 サイバーセキュリティ法』(中央経済社、2025)。

◎サイバーセキュリティと経営責任

サイバーリスクは事業継続を損なうリスクになりつつある。このリスクの深刻度は自然災害と同程度ともいえる」。2024年の有識者会議ではこのような発言も出た。サイバーリスクは個人情報漏洩だけではない。システムが破壊されると事業が止まる。アスクルの決算短信によると、2025年に発生したランサムウェア攻撃のシステム障害対応費用は52億16百万円。事業中断に伴う売上減は、前年同期比で292億円減となった。

22年の政府文書=サイバーセキュリティ戦略本部『重要インフラのサイバーセキュリティに係る行動計画』には、「取締役の内部統制システム構築義務には、適切なサイバーセキュリティを講じる義務が含まれ得る」「体制の決定に関与した経営層は、組織に対して、任務懈怠に基づく損害賠償責任を問われ得る」との記述がある。

取締役の“善管注意義務”に関わるのだ。なお、金融庁が24年に出した『金融分野におけるサイバーセキュリティに関するガイドライン』にも同趣旨の記載がある。

今後は、サイバーセキュリティ体制の構築・運用が不十分だったために攻撃を受けて会社に多額の損害が発生した場合、役員に対する株主代表訴訟が提起される可能性もある。なお、米国では既に同種の株主代表訴訟が提起されている。

◎事業継続を脅かすサイバーリスクであるランサムウェア攻撃

独立行政法人情報処理推進機構(IPA)が毎年公表する「情報セキュリティ10大脅威組織編」において「ランサムウェアによる攻撃」は6年連続でランキングの第1位だ。増加の背景として、攻撃者にとってランサムウェア攻撃は、身代金の支払いにより儲かり、しかもサイバー空間なので足がつかない。魅力的な犯罪ビジネスとなっている金銭目的である以上、ターゲットとなる被害企業に地域、規模、業態は関係ない。攻撃者集団は無差別で、入れるところに入ってお金を取る。

先述のアスクルの他、アサヒグループホールディングス、KADOKAWA、カシオ、ニップンもランサムウェア攻撃により甚大な損害を被った。リスクを「深刻度×発生頻度」で評価すると、深刻度は自然災害と同程度である。また発生頻度は、人為的かつ攻撃者が捕まりづらいため、自然災害より高い。そのため、企業が直面するリスクとして最大級のリスクといえる。

◎近時の被害事例からみるサイバーセキュリティの視点

侵入経路として、コロナ禍で普及したリモートワーク用の機器・仮想プライベートネットワーク(VPN)が悪用されている(警察のデータと実務の感覚では全体の6割以上)。

公表文をみると、美濃工業や日本医科大学、ニップン、半田病院、名古屋港、大阪急性期センター、岡山県精神化医療センターの事案もVPN関連だ。

VPNからの侵入という明確な攻撃傾向に対する対策は、以下の2点。
認証情報対策⇒認証情報(ID/Pass)をもって不正にログインされる場合に備えて多要素認証の導入
脆弱性管理⇒速やかなアップデート

上記2つをまず着実・確実に実行したい。組織として重要なポイントは下記。

サイバーセキュリティは技術から組織のフェーズへ。組織として対策し徹底するには「凡事徹底」の視点が重要だ。金融庁の文書にも、「一般的な3線防衛体制(業務部門、リスク管理部門および内部監査部門)のもと、サイバーセキュリティに関する各部門の役割分担の明確化や外部専門家を利用した検証の仕組み構築」とある。ガバナンスを担う経営陣も第4線として、第1線の業務部門に対して説明・指示し浸透を図ることが必要だ。

サイバー攻撃を抽象的に捉えると、取り組みが広く浅くなりがちだ。結果、「例外」や「一時的」が許容されたり、他拠点や子会社で対策漏れが発生するなど組織として「徹底」することが難しくなる。サイバー攻撃には明確な傾向があることを理解し、VPN/多要素認証/脆弱性管理など、リスクベースで対策を「絞る」勇気が必要だ。

繰り返すが、サイバーセキュリティは、技術の問題として捉えるのではなく、組織の問題として経営層が率先して取り組むべきコーポレートガバナンス上の課題なのである。

2026年2月17日(木) 会場対面・オンラインLIVE配信でのハイブリッド開催

source : 文藝春秋 メディア事業局