5年と思って始めた恐竜研究

真鍋 真 国立科学博物館館長

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 私は国立科学博物館(以下科博)で30年ほど、恐竜などの爬虫類や鳥類の化石を研究してきました。2026年4月からは館長を務めています。

 恐竜の研究をしていると、「子供の頃からの夢が叶って良かったですね」と声をかけられることがあります。しかし、私の恐竜との付き合いはずっと後になってからです。私は東京生まれ、東京育ちで、小中学生のころは地図と時刻表が愛読書で、廃止されつつあった蒸気機関車の写真を撮りに北海道や九州まで一人旅をしたりしていました。高校生になり、将来のやりたいことが見つからず、進路選択に困っていました。

 そんな時、地理や地学の先生たちが、夏休み明けの授業で、教科書に載っていた海外の有名な場所に行ってきたお土産話をよくしてくれました。高校の先生になって、夏休みに大好きな旅行をしようという不純な動機で教育学部地学科に進学しました。

 およそ2.5億年から1億年前の海の底だった地層が、どのようにして現在の奥秩父の山になったのか、1980年代にはまだよくわかっていませんでした。私は卒業研究でプランクトンのような顕微鏡サイズの微化石を調べて、その地層の時代を特定しようとしていました。

 大学4年の1年間はロータリー財団の奨学金をいただいてカナダ・サスカチュワン大学に留学しました。だれも奥秩父なんて知らないだろうとゼミで話し始めたら、ロッキー山脈を研究していた学生たちが、「同じ微化石がロッキー山脈からも見つかるから、同じ海で繋がっていたんだね」と身を乗り出して聞いてくれました。生物に国境は無いように、その生物に関心のある人たちにも国境が無いことを初めて実感できた瞬間だったかもしれません。そして私は海外の大学院に進学したいと思うようになりました。日本ではちょうど各地で恐竜の化石が発見され始めていた時でした。

 それまでの微化石から恐竜化石にテーマを変えること、大学院に進学することについては不安もありました。そこでサスカチュワン大学で数学のポスドク(博士号取得後の研究員)をしていた森田純さん(現在は筑波大学名誉教授)に、大学院に進学するとき不安はなかったか聞きました。森田さんは「大学院で好きな数学を5年も勉強できるならば、修了後に就職先がなかったとしても、そこからは第二の人生を歩めば良いと思っていた」と話してくれました。わたしも5年と思って始め、幸い今でも研究を続けることが出来ています。私は、若い人たちには、大学生ぐらいまでにやりたいことが見つかれば間に合うよと話します。

真鍋真氏 Ⓒ与古田松市

 私の教え子たちは、子供の頃から恐竜のことが好きだったと熱く語ります。私も科博に勤めて30年以上、いま活躍している教え子たちを見ていると、みんな子供の頃からのエピソードを持っている人たちでした。私は恐竜が好きな気持ちなんて人と比べることは出来ないと、あまり重要視していませんでした。しかし、それぞれの学生が、自分が子供の時から恐竜が好きだったことを心の支えにして、研究がうまくいかないときも、頑張ることが出来たのではないかと気づきました。子供の頃から好きなものがあったら良いですし、大人になってから自分の好きなことに気がついても良いです。周りの人たちと比べる必要なんてありません。

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source : 文藝春秋 2026年9月号

genre : ライフ 教育 歴史