マーク・クーケルバーク、デイヴィッド・J・ガンケル『対話型AIの哲学 「書くこと」に未来はあるか?』

第31回

村上 靖彦 精神分析学・現象学者

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エンタメ サイエンス 読書

AIがもたらした「作者の死」とは

 ChatGPTによって書かれた序文によって本書は始まる。AIによる執筆と僕は気づかなかった。そこまでAIは進歩しているのだ。アリストテレスは人間を「言語を与えられた動物」と定義した。しかし生成AIは「言語」を変質させるのではないか。

 著者はまず「大規模言語モデルは統計的な確率に従って単語を並べているだけだからであり、この事実を――少なくとも人間の『知る』という意味では――知らない」と確認する。

 そもそも言語を理解しているわけではないから、AIが間違えたり騙したりするのではない。AIの解答は確率によってデータから選択されたにすぎないのだが、受け取る人間にとってはバイアスやハルシネーションといった問題になる。

マーク・クーケルバーク、デイヴィッド・J・ガンケル『対話型AIの哲学 「書くこと」に未来はあるか?』(青土社)2640円(税込)

 さて、本書の焦点は、哲学的な問いである。AIにおいて自我とは何か、知性とは何か、言語とは何か。AIの出現で人類の権威は失墜するのか。もしAIが意識をもつのなら、社会のなかの自律した責任主体として遇するべきか。

 中世以来の言語観に、「言葉は現実世界と対応するときに真理となる」とする対応説がある。AIをめぐっても記号接地問題と呼ばれ、AIが現実に対応しているのかどうかが問われてきた。

 しかし現代の仏語圏の言語哲学は、対応説を批判してきた。記号間の差異から意味が生まれるのであり、現実との対応は本質ではないというのだ。ビッグデータの蓄積から確率論的に解答を導き出すAIは、彼らの言語観を補強する。

 AIはコミュニケーション観も変更する。AIは人格ではないなら、個人が別の個人へと伝達するわけではない。AIからの解答は、儀礼によって集団的に神の託宣が下る社会と似る。つまり語り手が誰なのかということはもはや問われない。

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source : 文藝春秋 2026年10月号

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