陛下の謝罪まで要求する常軌を逸する国家といかに戦略的に対峙すべきか。5人のプロフェッショナルの見解は——
はじめに 黒田勝弘
日韓関係が最悪といわれる。過去にも“最悪”はあったが、今回は日本側で韓国への不満や怒り、批判、不快感が広がっているという特徴がある。その結果、一部では韓国に対する制裁、報復論から国交断絶を主張する声まで出ている。
歴史を振り返ると日本は昔、いわば征韓論で韓国(朝鮮半島)に引き込まれ、深入りした結果、今なおその歴史のツケに悩まされている。ここは感情論ではなく、冷静に現状を分析し、より賢明な付き合い方を探る必要がある。
そこで、韓国経験のある各界の識者に日韓関係の現状とその背景、今後を語ってもらった。
寺田輝介氏は駐韓日本大使(2000〜2003年)やフォーリン・プレスセンター理事長を務めた元外交官。高杉暢也氏はビジネスマン(韓国富士ゼロックス元会長)出身で、韓国駐在日本企業・日本人の組織であるSJC(ソウルジャパンクラブ)の理事長でもあった。福山隆氏は韓国駐在武官(1990〜1993年)を経験した元陸将。退役後、米国ハーバード大アジアセンターで研修した軍事インテリジェンス・戦略論の専門家。新潟県立大学教授の浅羽祐樹氏はソウル大で学び、韓国の政治・社会に通じた気鋭の政治学者である。
黒田 この3月で日本統治時代の朝鮮で起きた三・一独立運動から100周年ということもあり、このところ韓国では“反日ムーブメント”が盛り上がっているように見えます。
実際、昨年から韓国は立て続けに日本を刺激する行動を取ってきました。10月に大法院(最高裁)がいわゆる徴用工問題で新日鉄住金に賠償を命じる判決を出したかと思えば、11月には日韓慰安婦合意に基づく財団は一方的に解散させられてしまう。さらに12月に韓国海軍の駆逐艦が海上自衛隊の哨戒機にレーダー照射するという異常事態まで起きた。海上自衛隊は韓国から先に自衛隊旗(旭日旗)を拒否されてもいます。きわめつきとしては、2月7日、文喜相(ムンヒサン)国会議長が慰安婦問題で「天皇は戦争犯罪の主犯の息子ではないか」と公言し、陛下の謝罪を要求した。これで日本世論に反韓・嫌韓ムードがさらに広がりました。
日本社会は今、一方的に韓国から“理不尽な文句”を付けられ多くの人が腹を立てています。「報復制裁すべし!」「断交すべし!」と主張する強硬派も増えています。
そこでまず実際に制裁・断交したらどうなるのか。皆さんでそのシミュレーションをするところからこの座談会を始めたいと思います。
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source : 文藝春秋 2019年4月号