安倍総理、減税せんと国民は飢える

松井 一郎 日本維新の会前代表
ニュース 政治
無責任な永田町、霞が関にはもう任せられない。僕ら「維新」には大阪市民、大阪府民の命を守る責任がある。吉村知事とは常に「3ヶ月先を想像してやろう」と言っている。スピード感を持って決断すること。それが何よりも大事だ。
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松井市長

スピード感が最も大事だった

 未曽有の緊急事態に対しての備えが甘かった――新型コロナウイルスの感染拡大を巡る安倍政権の対応を見ていると、残念ながら、そう言わざるを得ない面があります。

 その一つが、緊急経済対策として決めた減収世帯への30万円給付を撤回し、一律10万円給付へと変更したことです。補正予算案を大幅に組み替える異例の事態となりました。給付条件が複雑な30万円給付に比べ、一律10万円ならスピーディーに給付できる。正しい方針転換だったとは思いますが、それなら、なぜ早くから決断できなかったのか。

 背景にあるのは、“真水”での給付額をできるだけ抑えたいという財務省の意向でしょう。確かに減収世帯への30万円給付なら、必要な財源は約4兆円ですが、一律10万円給付となると、財源は約13兆円。財務省から「一律給付はプライマリーバランス(基礎的財政収支)の大幅な悪化に繋がります」などと説明されたら、安倍晋三総理もなかなか反論しにくかったのかもしれません。

 僕も本来なら、一定の所得制限は必要だと思います。贅沢な国会議員のポケットマネーからバラ撒くのではなく、国民の税金から支出するわけですから。しかし、所得制限をかけると、皆さんの手元に届くのに非常に時間がかかってしまう。その間に生活が立ち行かなくなる人も出てきます。今回に限っては、スピード感が最も大事なことでした。そして財務省が何を言おうと、最終的に総理は10万円給付へと舵を切った。その決断力は評価したいと思います。

日本経済のV字回復を

 しかし、国民の皆さんの命と生活を守り続けることを考えれば、10万円給付だけでは到底足りません。

 僕は目の前の「生活支援」と、今後の消費喚起のために行う「経済対策」を分けて考えるべきだと思っています。コロナ問題で仕事を失ったり、賃金が大幅にカットされた人々には、10万円給付のような生活支援が早急に必要です。後に詳しく述べますが、大阪でも独自に中小企業などへの支援金制度を設けました。

 他方で、政府が今すぐに考えなければいけないのは、その先の経済対策です。大きく落ち込んだ日本経済をV字回復させないといけない。

 では、そのために必要な政策とは何か。「減税」です。

 日本のGDPは個人消費が約6割を占めます。その個人消費が、昨年10月の8%から10%への消費増税以降、大きく落ち込んでいる。実際、増税後の昨年10月から12月のGDPは、5四半期ぶりにマイナス成長に転じました。そこに加えて、今度はコロナで人もモノも動かない。当然、個人消費はさらにガクンと落ち込んでしまいます。

 ただ、景気低迷の根本的な原因は増税にあるわけですから、まずはここを見直さないといけない。別に複雑なスキームは要りません。全ての商品やサービスに軽減税率を適用し、実質的に消費税を8%に減税して消費喚起を促していけばいい。2年間限定で適用すれば十分な景気対策になるはずです。さらに、6月末で終了予定のキャッシュレス決済のポイント還元制度も延長した上で、還元率を2%から5%に引き上げる。これも事実上の減税です。中小企業の店舗で決済した場合の還元率は今でも5%ですから、システムの変更はそう難しくはないでしょう。

 もちろん感染拡大を巡る状況は予断を許しませんが、夏頃には、それぞれの経済活動をフル稼働とまでは行かなくても、コロナ前の50%程度を目指したい。いざ普通に商売ができるとなった時に合わせて、減税がスタートし、キャッシュレス決済のポイント還元率も引き上げられれば、消費は一気に喚起されます。

 しかし、時間がありません。2カ月先、3カ月先に減税を実行するには、今から国会で審議していなくてはとても間に合わない。二転三転した補正予算が無事成立したからといって、それで終わりではないのです。

 そもそも総理は以前、リーマンショック級の危機が起きれば、増税を見送ると明言していました。今回のコロナショックはリーマン級どころか、リーマン以上の衝撃です。ここで減税に踏み切らないと、街は失業者で溢れてしまう。国民は生活できなくなり、飢えてしまいます。

 安倍総理は野党やメディアが批判キャンペーンを張る中、日米関係を重視し、安保法制や特定秘密保護法などを成立させてきました。歴代内閣に比べても、決断力があるのは間違いない。10%に引き上げた消費税を8%に戻す。今こそ、その決断力を発揮して欲しいと思います。

何でも批判の野党にウンザリ

 一方で、安倍総理のやることなすこと全てを批判している野党は、あまりに無責任です。

 例えば、4月1日に総理が打ち出した「全世帯への布マスク2枚支給」。僕は、あの時点では必要な政策だったと思います。すでにマスクの増産は始まっていましたが、ネット上ではマスク価格が高騰していました。しかし、実際に家庭に布マスクが支給されることで、従来の流通状況に戻っていくはずです。

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補正予算は二転三転して……

 星野源さんがアップした「うちで踊ろう」とのコラボ動画も批判を浴びていますね。でも、星野さん自身が「好きに使ってほしい」と言っているわけですし、外出の自粛が続く中、総理も公務が終われば、自宅に帰るのは当然のこと。おそらく側近の官僚が「星野さんの音楽に合わせて、自宅で過ごす姿を発信しましょう」などと提案したのでしょう。総理自ら「やりたい」と言い出したわけでは絶対にないと思いますよ。

 ただ、僕も動画を見ましたけれど、目くじらを立てるほどのことか、と言いたい。35万を超える「いいね」が付いていたそうですから、賛同した人も多かったのでしょう。

 無責任な野党の皆さんは結局、マスクや動画を批判することでしか存在感を示せないのです。ハッキリ言いますが、特に旧民主党系の皆さんは「国会議員という身分をいかに維持するか」しか考えていません。彼らは様々な特権を「見直すべき」と口にしますが、実際に見直したことはあるのか。民主党は「衆院の比例定数80削減」を公約に掲げ、政権を取りましたが、いざ政策を実行できる立場になっても、定数減に手をつけようとはしませんでした。

 昨年も参議院では、定数が6増えたことに伴う経費削減のため、参院議員の歳費を1人当たり月7万7000円自主返納できる制度を設けましたが、自主返納したのは、日本維新の会、自民党、公明党だけ。維新は以前から歳費の2割を被災地に寄付しており、合わせて月16万円のカットですが、旧民主党系の皆さんは返納している気配がありません。

 このコロナショックで国民の皆さんには多くの負担を強いるわけですから、国会議員が身を削るのは当たり前でしょう。彼らの口先ばかりの態度には、本当にウンザリします。

 そうしたことが影響したのかは分かりませんが、4月中旬の世論調査で、維新の支持率が立憲民主党を抜いたようです。とはいえ、深夜番組の視聴率程度の話。自民党の支持率は30%台なのに、我々は1桁台をウロウロしているわけですから、大したことは言えません。しかし「公約を守る」という点では、維新はどこの政党にも負けていない。そのことは自信を持って申し上げます。

いつもの霞が関のやり方

 永田町の国会議員や霞が関の官僚に任せるのではなく、首長が政治決断していかなくてはならない場面が増えています。僕自身、大阪市のトップとして、吉村洋文府知事とは常に「3カ月先を想像してやろう」と言っているんです。未曽有の危機ですから、スピード感を持って決断すること。それが何より大事です。

 東京都の小池百合子知事を見ても、決断する時は根性があるな、と思いますね。ただ、小池さんの場合、23区などの基礎自治体が担うべき身近な住民サービスにまで手を広げていて、少しやりすぎかな、というふうに見えますけど。それでも、あの決断力は立派だと思います。

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小池知事

 大阪の場合、府と市で役割が重なる「二重行政」の問題が残っていますが、昨年4月のクロス選で僕が知事から市長に、吉村さんが市長から知事になりました。迅速な対応ができているのは、お互いがやらなければいけないことを、理解していることも大きいと思います。

 ただ、あくまで広域行政の司令塔は大阪府。まして、感染症の問題は大阪市内だけに留まるものではありません。実際、司令塔を1つにすることで、物事を決めるのもスピーディーになっています。政策決定にあたっては、医師会、看護協会、病院協会といった医療従事者の皆さんとの協議が欠かせませんが、府と市がそれぞれで様々な団体と打ち合わせをしていては、二度手間、三度手間になってしまう。そこで府に対策本部を設け、市がオブザーバーとして出席する形を取りました。市は府の方針を理解した上で、基礎自治体として政策を実行していくのです。

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source : 文藝春秋 2020年6月号

genre : ニュース 政治