薬局×本屋

巻頭随筆

瀬迫 貴士 薬剤師
エンタメ 企業 読書

 2020年6月1日。大阪は豊中市蛍池で「ページ薬局」は産声を上げました。

「本屋さんが減ってほしくない」。薬剤師である私ですが、このような気持ちが次第に強くなり、ついには自分で本屋を開業するに至ったのです。週に一度はどこかの本屋に足を運ぶというルールを自分に課し、これまで5年以上続けてきました。速読のハウツー本に、世間の流行や最新情報の収集なら本屋がぴったりだとあったのを目にして始めましたが、今では習慣としてすっかり定着しています。

 そもそも薬剤師の私が薬局とは畑違いの出版業界に興味を持つようになったきっかけは、「1ヶ月100冊読書」です。大学時代、就活を始めるまでほとんど読書をしてこなかったのですが、昨年、何か新しいことをと思い取り組んだのがこの試み。月に100冊の本と向き合う中で、自分の本当にしたいことは本や本屋に関わることなのかもしれないと考えるようになりました。

 ネットで簡単に本を買える時代になぜ本屋なのかと問われれば、「本との偶然の出会いが圧倒的に多いから」と答えます。本屋の棚を見ていると、表紙や帯、POPに目を奪われ、買うつもりもなかった本に出会うことがとても多い。これは、ネット書店の“おすすめ機能”には生み出せない価値でしょう。偶然に出会った本こそ、自分に刺激を与え、視野を広げてくれるものなのです。

 しかし、その「偶然の出会い」を提供してくれる場である本屋が、街からだんだんと姿を消しています。1980年代後半から本屋の減少傾向には歯止めが利かず、今やピーク時の3分の1以下にまで減っています。これにはネット販売だけでなく、活字離れや情報の無料化、電子書籍の登場など様々な要因が挙げられると思います。

 出版業界に興味を持った当初、これほどまでにこの業界の状況が厳しいとは思ってもいませんでした。どうすれば本屋を残していくことができるだろうか。頭を悩ませる日々を過ごしました。

 そんな中浮かんだアイデアが、薬局と本屋の融合です。本屋だけで稼ぐのが難しいのなら何かと掛け合わせればいいのではないか。ならば、自分の領域である薬局との融合はどうだろう。薬局に本が置いてあれば、患者さんにも待ち時間を有効に使ってもらえるのではないだろうか。

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source : 文藝春秋 2020年10月号

genre : エンタメ 企業 読書