著名人が父親との思い出を回顧します。今回の語り手は、金田一秀穂さん(言語学者)です。
私の父はサザエさんの家のマスオさんのようだった。義父の波平はいないが、フネさんに当たる義母、カツオ、ワカメに当たる私の伯父、叔母たちが3人いた。タラちゃんにあたる私のきょうだいが4人いた。
その家族構成の中で、子どもたち以外はみな、父の春彦のことを、「ハリクさん」と発音していた。ハルヒコを縮めてそうなった。もともと、4人の子どもを抱えた母子家庭の祖母(フネさんに当たる人)の下宿に、高等学校生だった春彦が懐いて入り込んでそこの長女と結婚したのだ。そのようにして出来上がった家族だったから、春彦は母のきょうだいからは、「義兄さん」などと呼ばれなくちゃいけないのだろうけれど、下宿人の他人だから、春彦さん、ハリクさん、と呼ばれるようになったのだろう。
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source : 文藝春秋 2020年10月号