「日本学術会議が中国の軍事研究に協力」──なぜ根拠なきデマと陰謀論が消えないのか?
<この記事のポイント>
●日本学術会議を巡る問題に絡み、中国の軍事研究「千人計画」について有力政治家の発言がフェイクニュースの発火点になる事案が増えている
●SNSで行われる科学者バッシングの下地には、強い「反既得権益意識」が存在している
●陰謀論を支持する人が消えない背景には、ネットでは「人は見たい現実を見る」という事実がある
石戸氏
根拠のないバッシングに発展
政治家の発言がフェイクニュース、陰謀論の発火点になり、インターネットを駆け巡る“事件”が続いている。特に顕著なのが日本学術会議を巡る問題だ。
「学術会議の会員になれば自動的に日本学士院の会員になれ、年金がもらえる」といった類の誤情報をツイッターで拡散したのは、旧民主党から自民党二階派に合流した長島昭久、細野豪志である。彼らは謝罪に追い込まれた。
学術会議のデマを拡散する国会議員のツイート
そして一躍、ホットトピックになったのが「中国の軍事研究『千人計画』に日本学術会議が積極的に関わっている」とする陰謀論的な“ニュース”である。右派色の強いまとめサイト「アノニマスポスト」が拡散した“ニュース”は瞬く間にネット上に広がり、学術会議、在中日本人研究者への根拠のない「反日」バッシングへと発展している。まとめサイトはネット広告を収入源にしたビジネス目的のサイトであり、極論と人目につく見出しで、正確性よりアクセス数を狙う。
こうしたサイトに問題があるのは明白だが、ここで深入りはしない。注目すべきは「千人計画」問題の根拠が、自民党税制調査会長、甘利明の発信にあったことだ。
甘利明――直近では第2次安倍政権で、2012~16年まで経済再生担当大臣を務めた有力政治家である。「週刊文春」(2016年1月28日号)が報じた金銭授受問題の責任をとって大臣職を辞任したが、難航が予想されたTPP(環太平洋パートナーシップ協定)交渉をまとめ上げるなど、その手腕を評価する声は少なくない。
TPP交渉に参加した幹部官僚はこう語る。
「一言でいうと合理主義のタフネゴシエーター。本人は商工族で産業政策に強い人だけど、TPP交渉では農業など多くの分野もまとめないといけなかった。アメリカ側のフロマン通商代表にも一歩も引かない。日本の政治家だと押し負ける人もいるけど、甘利さんは違った」
今回の特徴は、これまでのようにネトウヨと親和性が高かった右派色の強い議員が、根拠不明な言説を撒き散らしたという類のものではない。甘利は永田町の評価は決して低くはなく、ビッグネームといっていい政治家だ。安倍政権下で度重なる問題発言を繰り返してきた右派議員たちとは経験も実績も一線を画している。それだけに問題は一段と根深くなっている。
長島氏(左)と細野氏
間違いだらけの甘利リポート
甘利は今年8月6日付の「国会リポート第410号」で、「日本学術会議は防衛省予算を使った研究開発には参加を禁じていますが、中国の『外国人研究者ヘッドハンティングプラン』である『千人計画』には積極的に協力しています」と書いた。
彼が認識している「千人計画」とは、海外から研究者を高額な給与で招き、「研究者の経験知識を含めた研究成果を全て吐き出させるプラン」である。「中国はかつての、研究の『軍民共同』から現在の『軍民融合』へと関係を深化させています。つまり民間学者の研究は人民解放軍の軍事研究と一体」というのが甘利のロジックだ。
まとめサイトが甘利リポートを発掘し、「根拠」として拡散したが、これが誤りだらけの“ニュース”だった。批判は、結果として根拠を提供してしまった甘利にも集まった。「日本の学者を厚遇で引っ張って研究と知識を全部吸い取ろうという計画。日本の研究者も十数人参加している」としてきた甘利も、10月12日付のブログでリポート内の表現を修正するに至った。
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source : 文藝春秋 2020年12月号