40年来の「親中派」活動の陰でバイデンは中国に大きな借りがあった
<この記事のポイント>
▶︎バイデンは今から10年ほど前、国家副主席だった習近平から中国企業を直接紹介され、最近まで癒着を続けていた
▶︎地元の雇用創出のためにバイデンとその中国企業が癒着する構図になっている
▶︎バイデンと習近平の“友情”は、2011年6月、イタリアのローマから始まった
バイデンと中国共産党
中国共産党体制を敵と位置付けたトランプ政権に代わり新たな米大統領に就くジョー・バイデンは、習近平中国国家主席とどのような関係を築くのか。貿易、ハイテク、台湾、香港、ウイグル、南シナ海などで報復の連鎖が続く中、バイデンは習近平を「悪党」と呼んだ。
だが、習近平はバイデンを「古き友人」とみなしており、バイデンも「親中派」として中国共産党側に接近したという因縁がある。
これから記すのは今から10年ほど前に副大統領として北京を訪れたバイデンが、国家副主席として次期トップを約束された習近平から、ある中国企業を直接紹介され、最近まで癒着関係を続けていた事実である。しかも、バイデンと中国共産党には長く深い交流の歴史があるのだ。
トランプは選挙向けツイートで「バイデンでは決して中国と渡り合えない」と指摘したが、全くの的外れではないだろう。習が遠くない将来、旧友のバイデンを笑顔で取り込み、手玉に取る姿が目に浮かぶ。
浙江省に本社がある「万向集団」は、中国における自動車部品製造の最大手である。同社側とバイデンとの面会について、同社ホームページは2014年8月6日と18年9月25日の2回、発表している。バイデンは1回目の面会時には副大統領であり、2回目はトランプ政権下で民主党大統領選候補になるべく準備を進めていた時期だ。
握手を交わす旧友
習近平が紹介した「部品王」
14年7月20~25日、万向集団の魯冠球会長(当時)はバイデン副大統領の招待を受けて訪米した。自動車産業都市デトロイト、ニューヨーク、さらにバイデンの地元デラウェア州ウィルミントンを訪れてからワシントンに入り、7月25日、ホワイトハウスで副大統領と面会した。同社の広報文は、その時の模様や2人の会話まで、詳細な記録を明かしている。
米国務省の中国語通訳が魯冠球に向かって「(中国人で)バイデン副大統領の執務室に入った重要人物は、劉延東副首相に次いで2人目です」と語るなど、異例中の異例の扱いだった。遅れて執務室に入ってきたバイデンは「隣の部屋でオバマ大統領とウクライナ問題を討議していました」と明かし、こう続けた。
「私と習近平主席の関係は非常に良いです。私が訪中した5日間のうち、彼は3日付き添ってくれた。彼の訪米時も私が3日付き添いました。最近の会談では我々は5時間半も話し合った。我々は、米中には競争が存在するが、ますます協力が必要だと認識を共有した」
それを受けて魯冠球はこう語った。
「過去数年の(米中)対話には私も参加した。11年に北京で開かれた(米中)企業家座談会で習近平主席はわざわざ、あなたに私を紹介し、万向の状況も伝えました」。バイデンも「覚えていますよ」と応じた。
02年から07年まで浙江省トップの共産党委員会書記を務めた習近平は、この時、もともと政府とつながりの強かった魯冠球と親密な関係になった。
農民出身の魯冠球は、文化大革命中の1969年、人民公社の農機具修理工場を立ち上げた。その後の改革・開放政策と共に自動車部品企業として急成長し、90年代前半に米国へ進出。今や約4万人の従業員を抱え、世界の拠点は10カ国に広がる。米国では約40カ所に工場を構えるとされる。
「部品王」となった魯冠球は2015年10月、中央人民ラジオ局の取材に習近平との関係を語っている。浙江省に赴任した習近平と会った際、魯冠球は、習の父親である習仲勲元副首相と会った時の写真を見せた。「そのことによって我々の関係は近くなった」。
習近平がバイデンに魯冠球を紹介したのは、11年8月19日。習近平が副主席、バイデンが副大統領として北京での米中企業家座談会に出席した時のことだ。翌12年2月、今度は習近平がバイデンの招待で訪米した際も、ワシントンで開かれた米中企業家座談会で魯冠球はバイデンと再会を果たした。
さらに15年9月、国家主席になった習近平はオバマ大統領の招待で国賓として訪米し、バイデンと再会した。魯冠球は、またもや習近平に付き添い、9月23日にシアトルで開かれた米中企業家座談会に出席した。会場で魯冠球を見かけた習近平は、嬉しそうに「冠球、来たか」と語りかけ、こう言ったという。
「あなたはここ(米国)で非常に多くの企業を持ち、発展もすばらしい」
この会で魯冠球は「BAT」(バイドゥ、アリババ、テンセント)など世界で飛ぶ鳥を落とす勢いの中国IT企業を押しのけ、中国側の第1発言者を任された。習近平との関係の近さが考慮されたとみられる。
その2日後の9月25日、習近平はバイデン副大統領ら主催の歓迎昼食会に出席したが、バイデンは魯冠球も招待していた。魯冠球の姿を見た習近平は「あなたもいたのか」と驚き、隣の彭麗媛夫人も「お会いできて光栄です」と喜んだ。1年前にホワイトハウスで会談したバイデンと魯冠球は、習近平を通じて完全に相思相愛になっていたが、その背景には何があったのだろうか。
万向集団の故・魯冠球会長
先端技術を持つ米企業を買収
話は2009年、バイデンが副大統領に就いた時に遡る。同年6月に米自動車大手ゼネラル・モーターズ(GM)が経営破綻し、デラウェア州ウィルミントンの工場を閉鎖した。その後、10月末にこの工場を買収すると発表したのが意外にも、遠く離れたカリフォルニア州に本社を持つ米環境車ベンチャーのフィスカー・オートモーティブだった。買収式典には地元のバイデンが出席している。フィスカーによる工場買収で、失業するはずの約2000人の雇用が可能になり、バイデンが買収に深く関わったと言われている。
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source : 文藝春秋 2021年1月号