新型コロナの拡大で有機野菜が売れている。内食をするようになって健康に関心が集まったのだろう。しかし有機野菜よりもっと健康的なのが自然栽培の野菜だ。農薬はおろか肥料も使わない農法で、トライしているのは小規模の農家ばかりだが、北海道に14ヘクタールという広大な畑で100種類以上の野菜を自然栽培している人がいる。洞爺湖のそばにある佐々木ファームの佐々木麻紀さん(45)である。
昨年の「G20大阪サミット」で、各国首脳に出された料理に佐々木ファームの野菜が使われたが、フランスのマクロン大統領は、その美味しさに驚いたのか、わざわざシェフに「この野菜はどこから来たのか」と尋ねたという
雑草だらけのキャベツ畑
冬を待つこの時期、佐々木ファームの畑では、ほとんどの野菜は収穫された後だが、人参など畑に残った野菜に「おはよう」「ありがとう」と声をかけている人がいる。驚くと、「ペットがいたら『おはよう』って言うじゃないですか。それと同じで、私たちには野菜も家族なんです」と麻紀さんは笑った。
自然栽培に有機JASのような規格があるわけではないが、基本は無肥料・無農薬栽培だと言う。
「有機栽培は畑に稲藁や鶏糞などの肥料を入れますが、ここでは一切入れていません。この畑にあった草や野菜の残渣(ざんさ)(くず)を入れるだけです。この畑で育ったものだけを土に返して循環させているので、私は循環型農業と呼んでいるんです」
肥料を入れないで野菜が育つのかしらと思われるかもしれないが、土作りがしっかりしていれば問題なく育つと麻紀さんは言った。
「この辺の農家は1メートルぐらいの深さまで土を耕します。表土にある草の種を地中に埋めて発芽させないためです。でも、それをやると土壌微生物のバランスが壊れるので化学肥料を入れないと野菜が育たないんです。うちでは表土を少し耕すだけで、基本は不耕起です。耕さなくても土壌の微生物が健在だと土は自然に柔らかくなっていきます」
佐々木麻紀氏(佐々木ファーム代表)
植物が育つのは、微生物が土の養分を分解してくれるからだが、農薬を使うと微生物がいなくなるのでどうしても化学肥料が必要になる。いわば点滴のようなものだ。
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source : 文藝春秋 2021年1月号