まな板の上から考える

コロナ下で読んだ「わたしのベスト3」

中島 岳志 東京工業大学教授
エンタメ 読書

 多くの専門家が指摘しているように、コロナウイルス拡大の背景には、環境破壊の問題がある。行き過ぎた自然破壊によって、これまで接触機会のなかった動物に接近し、ウイルスが人間に引っ越ししているのだ。ウイルスにとって人間は、都合のいい乗り物である。人間は移動し、社交する。そのため自己増殖のチャンスが頻繁に訪れる。私たちは、真剣に環境問題と向き合い、生活様式を見つめ直さなければ、繰り返しパンデミックに襲われるだろう。未知のウイルスが、もう次に控えているのだ。

 しかし、環境問題は遠い。アマゾンの森林伐採を見ると「何とかしなければ」と思うものの、どうしても日常から距離がある。問題意識が持続しない。そのような中、繰り返し読んだのが土井善晴『一汁一菜でよいという提案』だった。土井にとって、料理とは自然との交わりである。大切なことは、素材の力に委ねること。混ぜすぎてはいけない。計りすぎてもいけない。力ずくで料理を行うと、自然のおいしさが逃げていく。土井は、「人間業ではない」おいしさを追求する。味噌の中には、すでに生態系がある。ご飯や味噌汁は、「小さな大自然」であり、食事はミクロコスモスを取り込むことで、マクロコスモスとつながる行為である。土井の料理論は、宗教哲学と隣接している。まな板の上から、環境問題を考えたいと思った。

有料会員になると、この記事の続きをお読みいただけます。

記事もオンライン番組もすべて見放題
初月300円で今すぐ新規登録!

初回登録は初月300円

月額プラン

1ヶ月更新

1,200円/月

初回登録は初月300円
※2カ月目以降は通常価格で自動更新となります。

年額プラン

10,800円一括払い・1年更新

900円/月

1年分一括のお支払いとなります。
※トートバッグ付き

電子版+雑誌プラン

12,000円一括払い・1年更新

1,000円/月

※1年分一括のお支払いとなります
※トートバッグ付き
雑誌プランについて詳しく見る

有料会員になると…

日本を代表する各界の著名人がホンネを語る
創刊100年の雑誌「文藝春秋」の全記事、全オンライン番組が見放題!

  • 最新記事が発売前に読める
  • 毎月10本配信のオンライン番組が視聴可能
  • 編集長による記事解説ニュースレターを配信
  • 過去10年6,000本以上の記事アーカイブが読み放題
  • 電子版オリジナル記事が読める
有料会員についてもっと詳しく見る

source : 文藝春秋 2021年1月号

genre : エンタメ 読書