両陛下との11年間を最側近が明かした(聞き手・岩井克己)
――いよいよ平成31年4月30日に陛下が退位されます。羽毛田さんは17年から24年まで宮内庁長官を務めました。定例会見では、ときに皇室を政治から守る防波堤となり、ときに苦言を呈するといった感じで、記者として印象深いことが多々ありました。
羽毛田 宮内記者会向けの会見で、気の重くなる要因の一つは岩井さんですよ(笑)。昭和の時代からの数少ない生き残りの宮内記者ですから、年齢は私の方が上でも、皇室に携わった年数では先輩です。いかに岩井さんからの追及を逃れるか、いつも考えていました(笑)。
――羽毛田さんは、京都大学相撲部出身で、突き押し一本やりの性格。私はなんとか本音を引きだそうと、蹴手繰(けたぐ)りやら何やら、奇襲をかけてばかりでした。羽毛田さんも私もリタイアして、お目にかかるのは藤森昭一元宮内庁長官のお通夜以来ですね。
羽毛田 2年ほど前になりますね。近ごろはもっぱら土いじりをしています。人の顔より野菜を見ている方が長い。最初の職場を退職してすぐ、八ヶ岳山麓で畑を始めたのですが、イノシシやシカの獣害がひどくて、とうとう撤退しました。いまは自宅近くに広めの土地を借りて農作業に精を出しています。引退後は何も語らなかった藤森さん流にいけば、こんな席に出て話してはいけないのですが、今日は岩井さんに、畑から引っ張り出されてしまいました。
――平成皇室の30年を振り返ると、昭和の時代と比べて、皇室や天皇のイメージが本当に変わりました。
僕が駆け出しの頃は、式典で「君が代」斉唱となっても、記者は着席したままでした。しかし現在では、会場アナウンスに促されるままに記者がみんな起立する。そのうちカメラマンでさえカメラを置いて立ってしまうかもしれません(笑)。団塊世代の古い発想かもしれませんが、ジャーナリストが盲目的に起立・唱和することへの違和感は今もあるんです。
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source : 文藝春秋 2019年1月号