政府はいつまで愚かな対策を繰り返すのか。菅政権のコロナ対策はどう評価すべきか——5人の識者が徹底討論
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▶︎医療逼迫はひとつの例で、「本来できるはずの対策をできないと思い込んでやらないでいる」ことが、日本のコロナ対策全般に見られる
▶︎現在の接種率は、各国と比較にならないほど低水準。日本の厚労省ほど管轄当局が、ワクチン接種に後ろ向きで、サボタージュをした例を聞いたことがない
▶︎すべてがうまく行けば、今から1年半から2年で新型コロナはインフルエンザぐらいの病気になるだろう。しかし「終息」する(=なくなって消える)ことは当面、考えにくい
(左から)大野氏、小林氏、三浦氏、宮坂氏、米村氏
「時短営業」感染対策として効果なし
小林 新型コロナ禍を前にして日本は、ずっと出口の見えない状況が続いています。さらに、そこに第4波が襲って来ました。
「一時の我慢だと覚悟して自粛を続けてきたのに、いつまで続くのか」
「もっと他に何かできたのでは」
と、多くの人が持って行き場のない憤りを抱えているのが、いまの日本だと思います。私は政府のコロナ対策分科会のメンバーの一人ですが、もともと経済学の人間ですから、経済社会を何とかして正常化していきたい。しかし正直なところ、政府はやれることを十分にやっているのか疑問に思うところもある。そこで本日は、もう一度原点に立ち返って議論できたらと願っています。
米村 私は、もともと内科医ですが、現在は東京大学法学部で民法・医事法の研究に従事しています。
昨年12月以来、「医療体制の整備が十分になされていない」と、メディアを通じて訴えてきました。昨年12月時点では、メディアに出る医療関係者の意見は「これ以上の対応はできない」というものばかりでしたが、知り合いの医師たちから違う話を聞いていましたし、私の目から見ても、緊急にできる対応も含めてやれることが多くあったからです。
年明けになると、ようやく「日本は病床が多いのになぜ足りないのか」「改善の余地があるのでは」という認識が徐々に広まりましたが、そもそも昨秋から取り組んでいれば、第3波と言われる12月頃から2月頃までの医療の逼迫状況も、もっと改善できていたはずです。
小林 コロナ病床がなかなか増えないのは、「受け入れ能力がある」と申告している病院でも、実際はさまざまな事情で受け入れない場合があるからですね。リアルタイムでの公表に問題があるなら、例えば1年後でもいいので、各都道府県の知事が医療機関の受け入れ実績を公表して「見える化」してはどうかと思います。コロナ対策に貢献すれば社会から感謝される仕組みができれば受け入れは進む可能性があります。
国と地方の役割分担を
米村 医療逼迫はひとつの例で、「本来できるはずの対策をできないと思い込んでやらないでいる」ことが、日本のコロナ対策全般に見られます。本当にもったいない話で、医療界はもちろんですが、政府や自治体がリーダーシップを発揮してもっと努力してもらいたいところです。
大野 知事としての経験を踏まえつつも、率直に私の考えを述べさせていただきます。
実は埼玉県は、「人口あたりの病床数」が全国で一番少ない。そんな環境であっても、パッチを当てるような対応をしていくのが、我々現場の役目です。
例えば、昨年の第1波の際に、発熱や肺炎などの症状がある救急患者の搬送先がすぐに決まらない搬送困難事案が急増した時には、「疑い病床」(検査結果判明前の感染疑い患者を受け入れる)をつくり、救急システムと連動させることで、搬送困難事案を大幅に減らすと同時に、病床数の少なさをカバーしました。
それに対して、無症状者や軽症者を収容するためのホテルの確保に関しては、「現場の指揮官(知事)」にできることは限られていました。埼玉県はホテルも少なく、室数は東京の約8分の1で、千葉・神奈川の約2分の1です。そこで自治体の境界を越えて東京のホテルを使わせていただきたいとなるのですが、これが難しい。この種の調整は「後方の司令官(政府)」にやっていただくほかありません。
米村先生から「本来できるはずの対策をできないと思い込んでやらないでいる」というお話がありましたが、例えば、新型インフル特措法には、31条の「医療関係者への要請」や55条の「物資の収用」といった都道府県知事にかなり強力な権限を与える条文があります。ただ、実際にこうした権限を行使しようと国と交渉すると、「まさか、そんな強権をホントに使うんですか」という反応でした。
しかも特措法は、ワクチンが十分にあることを前提とし、「ワクチンをいかに円滑に打つか」という法律になっている。なのに、その肝心のワクチンがいまだ十分にない。つまり、現場の「戦術」のレベルでいくら工夫を重ねても、後方の「戦略」のレベルで解決していただくほかない問題が残されます。
逆にパッチを当てる対応に関しては、国が地方に介入しすぎてはいけないと私は思います。信頼関係の下に、国(戦略)と地方(戦術)が互いの役割を明確にし、分担して実施する体制が十全に機能しなかったことが問題だったと思います。
時短営業は無意味で違法?
米村 いま、人の行動を抑えるために緊急事態宣言をやっていますが、いったん減少しても、解除後に感染者数がまた増えてしまうのは目に見えています。それは狙いを絞った対応が取られていないからです。例えば、「ランチ営業まで止めると社会経済活動に対する影響が大きいから止めない」というのですが、それは感染対策を十分に行なっていない飲食店もランチ営業は放任されている、ということに他なりません。
小林 我々の間では、さすがにランチタイムまで止めると、経済的ダメージが大きいので、例えばランチは「一人で食べてください」と個食をお願いしてはどうか、とか、あるいは、70年代のオイルショック時には、ネオンサインを消灯することで人出が減ったそうなので、繁華街のネオンサインを8時で消灯するのはどうかという議論が出ています。
米村 私はそもそも「時短営業」の効果に疑問を持っているんです。分科会の専門家は、最も効果のある対策として推進してきましたが、感染対策として根本的に間違っています。要は、世の中には、安全な飲食店と危険な飲食店があるということなんです。この現実を見ずに一律に時短営業しても効果があるはずがない。感染対策を十分にやっている飲食店が不満に思うのは当然のことで、「都の時短営業命令は、営業の自由を保障した憲法に違反する」として訴訟を起こしたグローバルダイニング社の主張は理解できます。
大野 飲食店ばかりに目が向けられているのは確かにおかしいですね。埼玉県がより重視しているのは、高齢者施設です。高齢者は重症化のリスクが高く、また集団生活でクラスター発生のリスクも高い。埼玉県では、これまでも、県内全施設に職員を派遣して感染防止策を徹底するなど、戦術的対応に努めてきましたが、今後は、高齢者施設の認証制度を始めます。感染対策を審査し、基準を満たした施設は「優良施設」に認定し、ホームページで公表します。
三浦 政府も修正すべきところは修正してきました。今年1月~3月の2回目の緊急事態宣言では、1回目の間違いを正して、デメリットの方が大きいとして休校・休園措置を含めなかったのは、正しい決断です。では、「夜8時以降の飲食や外出をやめてください」というのは、効果があったのか。「ある程度までは効果があった」とは言えると思います。ただ、飲食店の時短営業で、新規感染者数を減らし続けられるわけではありません。どうしても頭打ちにならざるを得ない。東京都の新規感染者数で言えば、それだけで100人~200人の水準まで抑えるのは難しいでしょう。
政府は目標設定に失敗した
三浦 2回目の緊急事態宣言においては、「何を目指した措置なのか」が共有されていなかったことの問題の方が大きい。当初、西村康稔大臣は、宣言解除の目安として、「500人」と言っていたので、都民の側は「500人以下で安定的に推移すれば解除してもらえる」と思っていたわけですが、途中から基準がどんどん変わっていって、宣言がずるずると延長されました。
こうなると、「宣言はそもそも何を目指していたのか」という話になり、そこから「あくまでゼロコロナを目指すべきだ」という立場と「ある程度、感染者が出ても、医療崩壊さえ避けられればいい」という立場に国民の意見も分かれ、互いに相容れないようになりました。大部分の国民が合意できて、経済界も合意できる範囲内での「目標設定」に失敗したということです。
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source : 文藝春秋 2021年6月号