鈴木氏
『耳をすませば』の父親役
立花隆さんとはいろんなご縁がありましたが、真っ先に思い出すのが映画『耳をすませば』(1995年)のことです。宮崎駿のたっての希望で、主人公・月島雫の父親役として出演してもらうことになったんですが、その陰にはちょっとした経緯があるんです。話は僕の大学時代、1971年にまで遡ります。
当時、人気絶頂だった漫画家のジョージ秋山さんが急に引退宣言をして行方不明になるという事件が起きました。僕はジョージさんの大ファンだったので、何があったのだろうと心配していました。すると、『文藝春秋』に「漫画家・ジョージ秋山の失踪」と題する記事が載ったんです。さっそく読んでみると、何人もの関係者に取材し、生い立ちから失踪に至るまでのジョージさんの人生が見事に描き出されていました。強烈な印象を受けて、いまだに切り抜きを保管してあるほどです。じつは、その記事を書いたのが立花さんだったんです。
それ以来、立花隆という名前を意識して記事を読むようになりました。その後、立花さんは「田中角栄研究」で一躍時の人になるわけですが、漫画家から政治家まで、ずいぶん興味の幅が広い人だなと感心した覚えがあります。その多岐にわたるテーマの中で、僕がとくにおもしろいと思ったのが文明論でした。『文明の逆説 危機の時代の人間研究』には、こんなことが書かれています。
――自分が本当に生きたかったのは戦国時代や明治維新のような動乱期、乱世であって、安定期ではない。若い頃は、「我々の時代はなんと退屈な時代であることか」と思っていた。ところが、現代の哲学や科学を学ぶうちに世界の見え方が変わった。17世紀に始まった現代の科学文明は、いまや根底から揺らぎ、終わりに差しかかろうとしている。それに気づいたとき、我々は何とおもしろい時代に生きているんだろうと思うようになった――。
立花氏
興奮しながら読み終えた後、僕にはひとつの疑問が浮かびました。科学文明の時代が終わるのだとしたら、その次にはどういう時代が来るのだろう? そのことがずっと頭に残っていたんですね。ジブリで定期的に講師を招いて勉強会を開くようになったとき、立花さんにお願いしてみようと思い立ったんです。
一発OKでリテイクなし
猫ビル(立花さんの仕事場)を訪ねていき、単刀直入に「科学文明の次に来るものを教えてほしいんです」と言いました。すると立花さんは、「簡単に言わないでください。それが見つかったら、僕だって苦労しませんよ」と怒ってしまいました(苦笑)。でも、講師役は引き受けてくださり、じつに刺激的な現代文明論を話してくれたのです。講演の後は高畑勲や宮崎駿とも懇談し、すっかり意気投合。それをきっかけに立花さんとジブリの関係が始まるんです。
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source : 文藝春秋 2021年8月号