われわれは「習近平の中国」にどう向き合えばいいのか。21世紀の国際社会に突き付けられた難問である。「メルケルのドイツ」は、ウイグルへの人権抑圧を非難しながら、巨大な利益をこの国から引き出そうとしてきた。だが、共産党政権が結党100年を機に「中華民族の偉大な復興」を唱え、中国主導の生産システムに欧州各国を組み込もうとするに及んで、安易な政経分離など通用しないと覚ったはずだ。
柯隆の『「ネオ・チャイナリスク」研究』は、中国の素顔を遠近両方から精緻に描ききっている。国内にあっては、非効率に膨らんだ国営企業が党の特権階級を抱え込み、それゆえ不満を募らせる庶民をIT網によって監視し、厳しい言論統制を敷かざるをえない。外に対しては、「一帯一路」構想を掲げて大中華圏を目指し、海洋強国を呼号して周辺海域を自国領に取り込むべく窺っている。
柯隆はこうした中国のありようこそ「ネオ・チャイナリスク」として、かつて外国企業が当局の日替わりの政策変更で蒙った被害と峻別する。それは桁違いのリスクなのだ。
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source : 文藝春秋 2021年9月号