「嫌いな政治家は?」「いっぱいいますよ」
「自分の持ち味は聞く力」
阿川 お久しぶりです。
岸田 5年前の対談(『週刊文春』2016年2月18日号「阿川佐和子のこの人に会いたい」)以来ですね。
阿川 テレビで拝見して、おや、目が充血してるぞって思う時もありますが、お疲れではないですか?
岸田 大丈夫です。元気にやっております。
阿川 まずは御礼を申し上げようと思って。私は2012年に『聞く力』という本を出したんですが、岸田さんが総裁選の時に「自分の持ち味は聞く力」と強調してくださったおかげで、この度、増刷が決まりました。
岸田 それはよろしゅうございました。
阿川 増刷帯の惹句を「『聞く力』は大事です。ね、総理?」と、勝手に書かせていただきました。
岸田 こちらこそ、宣伝していただいて(笑)。
阿川 ちなみに……総理も拙著をお読みになって、「聞く力」をキャッチフレーズに?
岸田 すみません、直接のきっかけではなかったんですが(笑)。この本のことは、なんか覚えていますよ。
阿川 「なんか覚えている」? (尋問調で)ほう、では読んではいらっしゃらない?
岸田 すみません(苦笑)。でも、この本はよく売れて話題になりましたよね。
岸田首相と阿川さん
阿川 無理にほめてくださらなくても(苦笑)。じゃ、「聞く力」と言うようになったのはいつから?
岸田 昨年の総裁選の前から持論としてありました。政治家というのは聞く方ではなく、しゃべる方で競い合うもの。口八丁手八丁、滔々と語る人が多いけれど、自分はそこで競ってもなかなか分が悪い。
阿川 私がレギュラーの番組『ビートたけしのTVタックル』には政治家の方もよくゲストに来られますが、たしかに、みなさん、他の方が発言している時も割り込んで、誰も人の話を聞きませんね。
岸田 人の話をじっくり聞ける政治家って少ないでしょ。30秒黙るのすら我慢できない人もいますから。
阿川 例えば誰が一番話を聞かないんですか?
岸田 いやいや(笑)。誰というか、たくさん居ますよ。
阿川 たくさんね(笑)。安倍さんは?
岸田 安倍先生はバランス感覚あるほうですよ。
阿川 それで、岸田さんは一方的にしゃべるだけではダメだと思われた?
岸田 しゃべるためには、インプットも必要です。だから自分なりに考えて、私は「聞く力」だなと。そもそも国会議員のことを「代議士」と言いますよね。代わりに議論する。誰の代わりに議論するか。それはやっぱり国民の声をしっかり聞いて議論しないといけない。
「二」の付く人のイメージが悪かった?
阿川 今回は2度目の挑戦でしたが、昨年の総裁選に敗れてから、何を考えて過ごしてこられたんですか。
岸田 去年の総裁選は力不足でした。負けてみるとやっぱり世の中の評価は厳しかったですよね。
阿川 「政治生命は終わった」「頼りない」とか?
岸田 そういう声もいっぱいありました。最初は「もうダメかな」と思ったこともありましたが、自分を見直すいい機会だと前向きにとらえるようにしたんです。それで1年間、厳しい声にも耳を傾け、耐え続けてきた。これでだいぶ鍛えられたと思います。
阿川 ボコボコにされて、「もともと政治家なんか好きじゃなかったんだから辞めてやる!」とか思わない?
岸田 いえ、ここまで来たなら何としても踏みとどまってやろうと思いました。
阿川 でも、政治家って嫌なやつが多いな、とか。
岸田 まあまあ、程度の問題ですけれどね。
阿川 たとえば誰ですか? 具体的に。
岸田 いやいや(笑)、いっぱいいます。
阿川 なかなか口がお堅い(笑)。では今回、再挑戦を決意したきっかけは?
岸田 なにより、国民の政治不信が高まっていたことが最大の理由です。「政治家の言葉は心に響かない」「政治家の声を聞こうという気にもならない」といった声を耳にし、国民との乖離は深刻な状況でしたから。とくに地元の広島に帰った時には痛切に感じました。
阿川 広島といえば、いろいろな問題がありましたもんね。2019年の参院選広島選挙区の大規模買収事件で自民党から河井案里元議員側に1億5000万円が振り込まれた問題は、いまだにはっきりしてないし。
岸田 他の地域でもIR(いわゆるカジノ)を巡る汚職事件などが政治不信につながっています。そもそも日本全国に共通する問題として、コロナで国民の心が傷ついている。それなのに、国民の声がなかなか政治に届かない。
それから、自民党の中で、一部の有力な政治家が全て物事を決めているようなイメージもありました。
阿川 「二」の付く方ですか?
岸田 いやいや(笑)、ハイ。
阿川 えっ? 「ハイ」?
岸田 いや、いろんな方々がおられました。ちょっとそのあたりもイメージがよくなかった。
阿川 そうですね。怖かったです。
岸田 そんな折、3年ごとにある総裁選がめぐってきた。本来の自民党はバラエティある人材が居て、多様な意見があって、若い人たちの声もしっかりと聞き取れる包容力のある政党です。それを党内外に示すことが私の役割だと思い、総裁選に再挑戦すると決意しました。
「岸田ノート」は寝る前に書く
阿川 総理になられて約1カ月。一番つらいことは?
岸田 意外と自由に動き回れないことです。たとえば仕事の帰りにコンビニに寄って好きなものを買って帰るなんていうのが難しくなりましたね。
阿川 常にSPが同行していますもんね。
岸田 行動が制限されると、いろんな人の声を聞く機会が減っているんじゃないかなと、心配しています。一議員の時は、議員会館にお客様がいらっしゃるし、地元に帰っていろんな方の話を気軽に聞けた。今まで以上にこちらから話を聞く機会を設けるように努力しないと。
阿川 そこで「車座対話」を始めたわけですか。
岸田 そうです。総理になってから、医療施設、居酒屋、東日本大震災の被災地など、なるべく現場に出向いてみなさんの声に耳を傾けるようにしています。10月22日にも北海道に行き、理学療法士などを目指す若者たちと意見交換してきました。コロナ禍で就職活動ではウェブ説明会が増え、企業を訪れる機会が少ないため会社の状況がよく分からない、実習が十分でないので職場で働くのが不安だと言う方も。様々なご苦労を直接聞くと、やはり刺激になっていいですね。
阿川 そうやって聞いた話は、例の「岸田ノート」に書きとめるんですか?
岸田 よく「その場で書くんですか?」と言われるんですが、メモしながらだと、相手が話しづらくなってしまうんですね。阿川さんもそうでしょう? 今、私がメモしていたら、やっぱり話しづらいでしょう。
阿川 そうそう。嫌な感じになるんですよ。あと、メモしていると、相手の話が頭に入らなくなる。
岸田 それもあるかもしれない。だから、とりあえずその時は聞いて、面談が終わった後や夜寝る前に、「そういえばあれは印象に残ったな」と思ったところだけ書き残しておくんです。
阿川 ということは、岸田ノートというのは寝る前の日記みたいな感じですかね。
岸田 そうそう。そういうことも多いですし、相手が帰った後にバーッと書いておくこともある。
阿川 1日にどれぐらい書くんですか?
岸田 その時によるかな。いい話だったなと思うと、その話のあらましを全て書いちゃったりね。一方で、何も書かない時が続くこともあります。
ノートには「きわどい話」も
阿川 ノートを取り始めたのはいつ頃からですか?
岸田 2009年に自民党が下野した時からなので、もう10年以上ですね。ノートも30冊ほどになりました。
阿川 今日も持っていらっしゃる?
岸田 (上着の左ポケットからノートを取り出し)これはまだおろしたばっかりで、1ページしか書いていないんですが。
阿川 ちょっと見たい(眼鏡をかけて身を乗り出す)。
岸田 エッ? いやいや(苦笑。逃げる)。
阿川 1ページだけでも! 差し障りのあることが?
岸田 はい、差し障りが。選挙の前後はいろいろと。ちょっときわどい話も書いてあるんで。
阿川 「あいつは嫌なやつだ」「あいつには気を付けろ」とか?
岸田 そういうことを書くこともあります。だから人様には見せないようにしています。
メモの棒読みをしないのは前総理からの教訓?
阿川 ノートが役に立ったことは?
岸田 もちろんあります。講演や選挙の応援演説の材料を探すとき、「こんな話があります」とか、ノートの中からずいぶん引用してきました。
阿川 深く反省した話も演説のネタになってるとか。
岸田 それもある。「こういう失敗をしました」とか。
阿川 具体的にはどんなこと?
岸田 いやいや。反省はいっぱいしていますけど。
阿川 駄目ですよ! そんなアバウトでは(怒)。「聞く力」って具体性が大事なんですよ。
岸田 そうですね(苦笑)。そのあたりが、自分はまだちょっと足りないのかな……。
阿川 気を取り直しまして、岸田さんの記者会見をみていると、記者との質疑応答ではほとんど手元のメモを見ずにお答えになっていますね。
岸田 はい。会見用の資料は事前に一通りは見ていきますが、記者の皆さんとのやり取りはタイミングとか勢いも必要ですから、それを見ていたのでは一歩出遅れてしまう。内閣記者会から事前に質問はいくつか取っているようですが、抽選で参加するフリーの記者の方もいるので、基本的にはその場で答えるしかないですよね。
阿川 前総理は、質問に直接答えずに資料の“棒読み答弁”をしていたとして、「聞かれたことに答えない」と批判されていましたよね。資料を見ないようにしているのは前総理からの教訓ですか?
岸田 う~んとっ……いやいや(笑)。記者の皆さんとのやり取りは、対話している雰囲気が出たほうが真剣勝負という感じでいいんじゃないかなとは思います。
菅前首相
阿川 とてもいいと思いますよ。前総理とは違うんだという意思がすごく明確に伝わってきて。
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source : 文藝春秋 2021年12月号