『猫と庄造と二人のおんな』。元の妻と今の妻が夫・庄造を取り合う話で、その心理戦に利用されるのが庄造の溺愛する猫「リリー」。追い出された元妻が新妻に、愛されていると本当に信じてる? 違う。あの人は猫ばかりを見ているはずよ、なんて手紙を送るところから話が始まる。悪いこと言わへんから猫は私がもらったげる。新妻側は真に受けるもんかと思いつつも、見れば夫は確かに猫にデレデレ、次第に腹が立ってくる。庄造はマザコンのぼんぼん、こんなしんきくさい男のどこがいいの? でも今だっています、こんな男子、こんな女子。約7年後に生まれる『細雪』の源流。完璧な関西弁と相まって、滑稽で、切ない人間劇場。会話のテンポ、各人の心理描写も完璧。傑作とはこのことです。
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source : 文藝春秋 2022年1月号