国家社会主義者の北一輝(1883~1937)が著した『日本改造法案大綱』は戦前右翼のバイブルとなった。その影響力を政治思想史研究者の片山杜秀氏が分析する。
片山杜秀
100年前の1921年9月28日、社会運動家、朝日平吾が、大資本家、安田善次郎を暗殺し、その場で自殺した。遺書には北一輝の『日本改造法案大綱』の影響がみられる。この事件が昭和の血盟団事件や五・一五事件へとつながり、1936年の二・二六事件に至る。失敗したクーデターだが、首謀グループには磯部浅一ら、北の信奉者が含まれていた。
この100年前から85年前までを北一輝時代と呼べるかと思う。北の蒔いた右翼暴力革命の種が膨れ上がって弾けた15年間なのだから。北は、天皇の下で国民を平準化させ一枚岩にしようとする、一種の国家社会主義を唱えた。『日本改造法案大綱』は華族制度の廃止や私有財産の制限を謳う。明治国家体制は天皇制と資本主義の二本柱で出来ている。北は、天皇を称えつつも意味付けを変えようとし、自由経済にも触ろうとしたから、その存在は早くから警戒された。北は二・二六事件に直接には関わらなかったのだが、思想的親玉として連座させられ、処刑された。
北一輝
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source : 文藝春秋 2022年1月号