武家政治はいかにして生まれたか
鎌倉幕府の成立期を描くNHKの大河ドラマ『鎌倉殿の13人』が好調のようだ。主人公は、のちに執権となる北条義時。必ずしも時代の主役だったとはいえない人物をとりあげたところに、制作側のひねった狙いがあるのだろう。
鎌倉幕府の構造は複雑だ。首長であるはずの将軍は必ずしも大事にされず、補佐役とされる執権が政務を主導する。執権政治と呼ばれる体制で、その端緒を開いたのが義時である。武士による初めての政権と義時の成長がどのように描かれるのか、毎週楽しみにしている。
というわけで、書店に行けば鎌倉幕府や北条義時の関連書が数多く並んでいる。今回はその中から『執権 北条義時』をご紹介しよう。
本書の冒頭では、義時を武内宿祢の生まれ変わりとする鎌倉時代中期の説話が紹介される。武内宿祢は神話時代の6代の天皇に、280年余にわたって仕えた伝説上の大臣で、帝王を後見する者の理想像である。将軍に代わって権力を握る北条氏の立場に正統性や権威を見出すために生まれた語りだろう。あわせて、鎌倉幕府の9人の将軍のうち、頼朝以外の8人が暗殺や更迭によって、次の将軍と交代したことがあきらかにされる。
将軍の血統を粗末にするだけでなく、鎌倉幕府の歩みは内訌や粛清をくりかえす、実に血なまぐさいものであった。義時は執権政治の建設を意図し、実現したのか? それとも、さまざまな危機をしのいでいくなかで、結果として執権政治が形成されたのか? 著者は後者の見かたをとる。そして本書は、義時の生涯における5つの危機と逆転の一手から、彼の人生を解き明かす。
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source : 文藝春秋 2022年4月号