ウクライナ戦争では、米欧日など30カ国以上がロシアに対して広範な経済制裁を行っている。ロシアの主要銀行をSWIFTから排除し、ロシアの中央銀行の外貨準備(6400億ドル)のうち米欧日などの中央銀行で保管・運用している3000億ドルにのぼるドル、ユーロ、円などの外貨準備を凍結。ロシアからの石油、ガス、石炭の輸入をできるだけ禁止する。ロシアからの輸入への貿易上の優遇措置である最恵国待遇適用を撤回する、などである。
なかでも外貨準備の凍結はロシアがルーブルの暴落を防ぐための介入資金を遮断することでもあり、金融制裁の“核オプション”と言われてきた。ただ、プーチンはいま「ルーブルは、危機の前の水準に戻っている。彼らの制裁は失敗した」と勝ち誇ったように語っている。実際、ルーブルはほぼ危機前の水準まで持ち直している。
しかし、経済制裁は始まったばかりだ。戦争は泥沼化の様相を呈している。ロシアによるさらなる大規模な民間人殺戮や戦術核使用などがあれば、凍結したロシアの外貨準備を没収する(liquidate)こともありうる。休戦協定、さらには平和協定が結ばれるにしても、ウクライナの対ロシア交渉上の最強のカードはこの経済制裁となるだろう。経済制裁は長期化すると見て間違いない。米国の北朝鮮とイランに対する経済制裁はそれぞれ70年、15年以上続いている。
それでも、核保有国のロシア相手の経済制裁には大きな課題があることも認識しておく必要がある。ロシアの経済を窒息させ、プーチンに対する国内の批判を強めることはできる。しかし、軍は軍需品も石油も自給体制が確立しており、制裁に対する耐性が強い。金融・財政も、毎日、10億ドルのエネルギー関連収入が国庫に入ってくる。インドなどの「中立国」がロシアからの石油やガスを格安で買い付ける動きも報道されている。
より重要なことは、ロシアに対する経済制裁の目的は何なのか、という点である。戦争を終結させることなのか。プーチンを失脚させることか。それとも体制を転換させることまで視野に入れるのか。
制裁のトレードオフと費用対効果も見定める必要がある。経済制裁は相手の政治体制より一般社会を傷つけるのではないのか? また、制裁相手より制裁する当事者をより傷つけることにならないか?
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source : 文藝春秋 2022年6月号