夜の7時頃、今からUFOキャッチャーをしないかとメッセージが届いた。ついでに写真も撮り、たこ焼きも食べたいと書いてあった。相手の名前は、仮に甲とする。甲のことは、以前から知っていたが、会ったことはなく、メッセージのやりとりをするのも初めてだった。いいですよ、と私は返信した。ただ、写真を撮るのは苦手だから、気が向いたら撮るということにしたいと書いた。私は家にいて、その日は何も予定がなかった。互いの家の、中間あたりにあるゲームセンターで、1時間後に落ち合うことになった。支度ともいえないほどの簡単な支度をしながら、私が好きな小説に、ゲームセンターでUFOキャッチャーをするシーンがあったのを思い出した。その小説では、一緒にゲームセンターに行った相手は階段から落ちて頭を強く打ち、生死の境をさまようことになった。
甲の顔は写真で見て知っていたから、すぐにわかった。私も甲も、偶然丈の長い黒いコートを着ていた。甲は、右側から自分を見てほしいからと、私の左側に立った。私は理由も聞かずに承知した。こうした要望を最初に伝えておくのは、お互いがストレスなく過ごす上でまったく理にかなったことだと思ったし、甲に限らず、このような希望があれば遠慮なく言ってほしいと思った。
私たちは、UFOキャッチャーをするために集まったのだから、当然UFOキャッチャーをした。ゲームセンターはとても広く、UFOキャッチャーの筐体はいくつもあった。景品もさまざまだったが、私はその中でも最も大きい、デフォルメされたワニのぬいぐるみをとることにした。私は、UFOキャッチャーをするのがとても上手いから、ワニを一回でとった。甲は左側に立ち、私がワニをとる様を動画で撮っていた。あまりにもすぐにとれてしまったから、近くにあった、ワニと同じくらいの大きさをした、ほぼ球体に近い何かのキャラクターのぬいぐるみもついでにとった。ぬいぐるみについていた札を見ると、トカゲだと書かれていた。
その後、マリオカートで2度対戦してからゲームセンターを出て、巨大なぬいぐるみを二体抱えたまま、甲の案内で少し離れたところにある飲食店に入った。よく覚えていないが、確か和食の店だった。私たちは、カウンターの席に通された。甲は、ここでも私の左側に座った。人と向かい合って食事をとるのがあまり好きではないから、カウンターの席は私にとっても都合がよかった。
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source : 文藝春秋 2022年6月号