胃腸薬「『制酸剤』『刺激性下剤』は常用を避ける」

大久保 政雄 山王病院消化器内科部長
ライフ 医療 ヘルス
大久保政雄医師
 
大久保氏

まずは生活を見直して

 消化器系の薬は身近すぎて、「何となく飲んでいる」という人も少なくないようです。この記事をきっかけに、目的をしっかり意識して、症状に合わせて正しく服用してほしいと思います。

 まずは「胃薬」についてです。一般的に胃薬と呼ばれる薬は、胃酸を抑える「制酸薬」のことを指します。制酸薬は大きく分けて、ヒスタミンH2受容体拮抗薬H2ブロッカー)とプロトンポンプ阻害薬PPIPCAB)があります。

 H2ブロッカーは、胃酸の分泌を促進するヒスタミンの働きを邪魔する薬です。胃粘膜にあるH2受容体を塞いでしまうことで、ヒスタミンが結合できず、胃酸を出せなくなるのです。一方のPPI、PCABは、胃壁にあるプロトンポンプという胃酸を分泌する組織に作用して、胃酸を抑える薬です。これらの薬を効果の強い順に並べると、PCAB、PPI、H2ブロッカーとなります。

 ピロリ菌の感染者が多かったひと昔前までは、ピロリ菌による胃潰瘍も多く、制酸薬に頼るシーンは多かったと思います。しかし、この20年ほどでピロリ菌感染者は激減し、制酸薬のニーズも減っています。

 では今の時代、制酸薬の出番があるとすれば、どのような状況なのでしょうか。まず挙げられるのが、逆流性食道炎ですが、そもそも逆流性食道炎を起こす背景には「食べすぎ」や、食後すぐ横になるなどの生活習慣があります。安易に薬に頼る前に、まずはご自身の生活を見直してみるのがいいでしょう。

 もう一つ、制酸薬が必要になる場面として、別の薬による副作用への対応があります。脳梗塞や心筋梗塞の予防目的でアスピリン、あるいは痛みをとる目的でロキソニンなどのエヌセイズが出される人は多いですが、これを「少ない水」で飲むと、胃や消化管の粘膜に薬剤がへばりついて、意外に簡単に粘膜障害や潰瘍ができてしまうのです。特に高齢者は一度にたくさん(と言ってもコップ一杯ですが)を飲むことが難しくて、薬剤性の胃炎を引き起こしやすくなっています。アスピリンやロキソニンの処方の際、制酸薬も一緒に出されることが多いはずですから、医師の指示に従ってきちんと飲むようにしてください。

 制酸薬の注意点としては、特別な事情がない限りは常用しないということです。制酸薬を常用すると、つねに胃の中が「胃酸の少ない状態」に傾くので、本来胃酸によって殺されるべき一般細菌やウイルスなどが生き残るリスクが高まります。胃酸はちゃんとした理由があって分泌されているものです。無暗にブロックするのは自然なことではありません。胃の症状が治まれば、そこからは制酸薬の服用はやめること。エヌセイズなどを連用していない限り、症状がないのに飲む必要はありません。

 代表的な制酸薬の他にも、胃薬には酸中和薬機能改善薬粘膜保護薬などがあります。

 酸中和薬は胃のむかつき症状が強い時に、症状を早く消すのに便利な薬です。制酸薬に加える形で使うのは合理的と言えます。

 機能改善薬は胃の動きが落ちている時に使う薬で、食後の胃もたれには効果を発揮します。ただ、この薬を飲むと、胃だけでなく消化管全体が活発になってしまう。便秘の方には便通がよくなることがある一方、下痢になる人もいるので注意が必要です。それ以外の副作用はないので、高齢者の方も安心して常用してください。

 最後の粘膜保護薬は、胃潰瘍に効果があるとされています。ただ、胃潰瘍は制酸薬で治るケースがほとんどなので、必ず使わなければならない薬というわけでもありません。もし処方されたら、医師に確認してもいいでしょう。

 総じて、薬剤性の胃炎予防以外の目的で飲む胃薬は、症状が消えたら服用をやめて問題ありません。

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安易に刺激性下剤に頼るな

 高齢になるほど水分摂取量、食事摂取量、運動量が落ち、腸の動きも鈍くなるので、便秘に悩む人も増えます。そのため便秘薬(下剤)を連用している人も少なくありません。

 便秘薬には、非刺激性下剤酸化マグネシウム)と、刺激性下剤センナなど)があります。まずは非刺激性下剤を使ってみて、効果が出ないときに刺激性下剤に切り替えるのがセオリーとなっています。

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source : 文藝春秋 2022年7月号

genre : ライフ 医療 ヘルス