痛み治療の基本
「痛い」という言葉を辞書で引くと、「神経に耐えがたいほど強い刺激を受けた感じ」「外力や病気で肉体や精神が苦しい」とあります。
痛みがある状態は体にとって異常なことです。痛みによって日常生活に影響が出るなら、それを解消するために医療の出番となります。
治療の上では、痛みはその原因によって大きく2つに分類されます。
●侵害受容性疼痛…ケガや炎症などによって痛みの元となる「プロスタグランジン」などの発痛物質が放出され、これが侵害受容器という器官を刺激することで起きる痛み
●神経障害性疼痛…神経そのものが異常を起こして起きる痛み
ケガや手術直後などの「急性期の痛み」は侵害受容性疼痛です。これが長期化すると、神経そのものがダメージを受けて神経障害性疼痛へと移行します。
実際にはこの他に、長く続く痛みで脳の神経回路の変化が関係している痛覚変調性疼痛という分類もあります。一般的に言われる「慢性疼痛」は、この3つの分類が微妙に複合したものですが、その中でもどれか一つが主であることが多い。そこに合わせた治療をおこなうのが、痛み治療の基本的な考え方です。
治療法は分類ごとに確立されているので、順に見ていきます。
まず、侵害受容性疼痛に使われる薬は、ロキソニンやボルタレンなど「エヌセイズ=非ステロイド性消炎鎮痛薬」と呼ばれるものです。
炎症や痛み、発熱などの症状を抑えるホルモンにステロイドがありますが、これを投与して全身に巡らせてしまうと、免疫力が低下して感染症にかかりやすくなる、骨が弱くなるなどの副作用があります。そこでステロイドではなく、別の酵素を使って発痛物質の生成を抑制する作用を持つのがエヌセイズです。
痛みが始まってからの1カ月は、大半が侵害受容性疼痛と見ていいので、まずはエヌセイズで様子を見ます。腎機能が悪いなどの問題がない限り、1カ月以内の服用ならまず安全です。痛みがある時、私自身も積極的に使っています。ただ、長期間続けて使うと胃潰瘍、腎機能障害、狭心症や心筋梗塞のリスク上昇などの副作用があるので、無駄な長期連用は控えるべきでしょう。
次に神経障害性疼痛ですが、このタイプの痛みに使われる薬としては、リリカ(プレガバリン)やタリージェ(ミロガバリン)などが有名です。てんかんに使う薬の仲間ですが、興奮した神経を鎮める作用があるので、神経障害性疼痛治療の第一選択薬としてよく選ばれます。
神経障害性疼痛には、サインバルタ(デュロキセチン SNRI=セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬)やトリプタノール(アミトリプチリン=三環系抗うつ薬)などの抗うつ薬が効果を示すこともあります。これらの抗うつ薬は、人間が元々持っている「痛みを感じないようにしようとする機能」(下行性疼痛抑制系)に作用することで、痛みを感じにくくさせます。特にサインバルタは、効果が高いわりに副作用は導入時の吐き気や眠気くらいで、比較的安全な薬です。夕食後や就寝前に服用すれば、副作用の眠気を有効利用できるので、そこは上手に利用するといいでしょう。
少量では意味がない
問題は、薬に対するイメージです。SNRIは本来抗うつ薬として処方される薬なので、薬局で薬を受け取る時に「自分は精神疾患ではない」と拒否反応を示す人が一定数いるのです。医師から丁寧な説明がなければ、このように治療にも影響が出るので、注意点と言えるでしょう。
痛みの治療には他にも、オピオイド(医療用麻薬)や神経ブロックなどが用意されていて、必要に応じて選び、組み合わせることになります。ただ、オピオイドには悪心、嘔吐、眠気、便秘などの副作用に加え、依存性もあります。神経ブロックは局所に作用するので副作用が少ないものの「針を刺す」という痛みは伴うので、心に留めておいてください。
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