日本の経済の中心地、東京・丸の内。敏腕経済記者たちが“マル秘”財界情報を覆面で執筆する。
★領土拡張と後任選び
「第4のメガバンク」構想を掲げ、新生銀行を傘下に収めたSBIホールディングス(北尾吉孝社長CEO)の領土拡張が止まらない。
2月には代表取締役副社長(COO=最高執行責任者)だった川島克哉氏がその役職を辞し、新生銀行の社長に就任した。同氏は野村證券から北尾氏に乞われソフトバンクへ移籍し、主力の証券事業を成長に導いた立役者だ(06年にSBIはソフトバンクとの資本関係を解消)。
「忠実なイエスマン」とみる向きもあるが、若くからその手腕が評価され、SBI社内で昇格を果たしてきた人物だ。そんな川島氏に対しSBIHDは、6月末の株主総会で退職慰労金1.1億円を支払う異例の決議を取った。
同じくSBIHDの執行役員だった畑尾勝巳氏も、2月に本体を離れて新生の専務取締役に就任している。畑尾氏は三菱UFJ銀行で海外畑を歩み、常務執行役員などを務めた馬力あるエリートである。
公的資金を返済しない新生を「泥棒と一緒」と非難した北尾氏による新生のSBI化は着々と進んでおり、来年1月から社名も「SBI新生銀行」に変わる。
新生銀行だけではない。SBIは島根銀行(鈴木良夫頭取)や福島銀行(加藤容啓社長)など9行の地銀に出資し、SBIHD専務取締役の森田俊平氏が代表取締役を務めるSBI地銀ホールディングスが束ねる。新生に対する株式公開買い付けもこのSBI地銀ホールディングスが主体となった。新生が強みとする「仕組み金融」の手法を武器に、新生を主体とした地銀の買収も匂わせている。
ビジネス拡大と同時に、ポスト北尾の後継者争いも始まりつつある。6月の総会では、モーニングスターなど資産運用業務全般を統括する朝倉智也氏が、SBIHDの取締役副社長に昇格した。
また中核のSBI証券の社長は、川島氏の後任でSBIHDの取締役副社長となった髙村正人氏。SBI証券は暗号資産・ブロックチェーンをはじめ積極的な買収を行っており、7月には国内暗号資産交換所のビットポイントジャパン(小田玄紀代表取締役会長)を子会社化した。買収を通じて、NFT(非代替性トークン)など新しい分野にも手を伸ばす。
御年71の北尾氏は6月、新たに会長職にも就いた。後任選びには時期尚早だが、事業の拡大を通じてその候補は絞られつつある。
北尾氏
★ピンチを迎えた「用心棒」
株主対応のコンサルティングを手掛けるアイ・アールジャパンホールディングス(IRJ、寺下史郎社長)が6月1日、インサイダー取引容疑で証券取引等監視委員会の強制調査を受けた。この2日後、寺下社長の右腕といわれた栗尾拓滋副社長が「一身上の都合」で辞任している。
IRJは一般には馴染みの薄い会社だが、業界ではアクティビスト(物言う株主)に対抗する用心棒としてよく知られている。
昨年、投資会社のアジア開発キャピタルに株式を買い占められた輪転機メーカー最大手の東京機械製作所(都並清史社長)や、ディスカウントストアのオーケー(二宮涼太郎社長)から買収を仕掛けられた関西スーパー(林克弘社長)のアドバイザーに就き、いずれも防衛成功に導いた。
強制調査に慌てたのがIRJの顧客企業だ。
「株主総会直前だったため『IRJをアドバイザーに付けていることが株主を刺激するのではないか』と社内は大騒ぎになった。おまけにIRJがガサ入れの事実を認めたのが5日後で、対応する時間がなかった」(顧客企業幹部)
日本国内でアクティビスト対策を強みとするコンサルはIRJくらいしかない。ある調査によると全上場企業の16%、時価総額5000億円以上の企業の約半数が同社の顧客という。それもあって同社の株価は2021年1月には上場来高値となる1万9550円を付けた。
年明け以降の株式相場の軟調を受けて年初来高値は6960円。しかし強制調査を公表したことで株価は暴落、6月20日の終値は1757円とピークの10分の1以下にまで下がった。
IRJの株式の過半数を握る寺下氏は、一昨年に保有資産が1000億円を超えるビリオネアとしてフォーブスにも取り上げられた。だが社内で厳しいノルマ・ペナルティを科す手法も含め、企業ガバナンスの観点から寺下氏のワンマンぶりを問題視する向きも多い。6月17日の株主総会では「ガバナンスに問題があれば適切に対処したい」と発言したが、株価暴落といい、防戦一方の状況が続いている。
★暴落に賭けるファンド
過度な円安で日本銀行の黒田東彦総裁への批判が高まっている。6月22日には、ドル円相場が136円台をつけ、24年ぶりの円安水準となった。その円安の主因は内外の金融政策の違いだ。欧米の中央銀行が利上げに動く一方、日銀は金融緩和の継続を堅持している。
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source : 文藝春秋 2022年8月号