日本の経済の中心地、東京・丸の内。敏腕経済記者たちが“マル秘”財界情報を覆面で執筆する。
★ヤマトの救世主か?
物流業界の関係者に衝撃が走る人事だった。今年5月、ヤマト運輸(長尾裕社長)はアマゾンジャパン(ジャスパー・チャン社長)の副社長で物流部門のナンバー2だった鹿妻明弘氏を専務執行役員として招聘した。
鹿妻氏は日産自動車(内田誠社長兼CEO)を経て、2006年にアマゾンジャパンに入社。タフネゴシエーターで知られた鹿妻氏は、同社の急成長を牽引し、21年前半までに退社。その後、「2ケタ億円以上の株式報酬を手にした鹿妻氏は、趣味の競馬に入れ込み、馬主になるなど、悠々自適の生活を送っていた」(ヤマト関係者)。
宅配最大手のヤマト運輸にとってアマゾンジャパンは最大の顧客。内情を知り尽くす鹿妻氏を取り込むことで、良好な関係を保ちたいとの思惑が透けて見える。
この10年あまりヤマトとアマゾンの関係は紆余曲折の変遷をたどってきた。13年から佐川急便(本村正秀社長)に代わり、ヤマトはアマゾンの配送を担う。しかし17年、ヤマトで宅配の急増による労務問題が表面化し、荷物の取扱量抑制と最大4割の値上げが実施された。
するとアマゾンはヤマトへの委託量を減らし、丸和運輸機関(和佐見勝社長)やSBS即配サポート(鎌田正彦社長)など低コストの中小配送業者への委託を増やしたのだ。
自ら宅配取扱量を抑制したヤマトだが、予想以上の激減に焦りを募らせる。そこで同社は20年6月からヤフー(小澤隆生社長)のEC出店者向けに物流代行サービスを開始。さらに1度値上げを迫ったはずのアマゾンに対し、値下げ料金の提供を始める。そんな状況下での鹿妻氏の招聘は「恥も外聞もないラブコールだ」(別のヤマト関係者)。
今後、鹿妻氏はアマゾンとの交渉を首尾よく進められるのか。最大のネックとなるのが、ヤマト運輸と親会社ヤマトホールディングスの社長をつとめる最大権力者である長尾氏の存在だ。
長尾氏は、アマゾンとの価格交渉の責任者であり、現在の混迷を招いた張本人。「いまどき珍しいワンマン社長がいる限り正常な企業ガバナンスは働かない」(同前)と言われており、目玉人事も空振りに終わるかもしれない。
★楽天株に落胆する
日本郵政(増田寛也社長)幹部らが楽天グループ(三木谷浩史会長兼社長)株の値動きに神経を尖らせている。郵政関係者から「これじゃ楽天じゃなく『落胆』だ」と怨嗟の声が漏れてくる。
郵政が楽天と資本業務提携に踏み切ったのは昨年3月のことだった。中国のゲーム大手、テンセント(馬化騰CEO)、西友(大久保恒夫社長)などとともに楽天の2423億円余にのぼる第3者割当増資を引き受けたもので、うち郵政は約1500億円と最大の資金を拠出。楽天発行株の8.32%を握る、三木谷家に次ぐ実質第2位の大株主に躍り出た。引き受け価格は、1株1145円だった。
ところが楽天の株価は、今年に入ってからほぼ下落の一途。6月20日には一時、年初来安値となる582円にまで値を下げ、郵政の引き受け価格の半値に急接近する事態に陥った。
保有有価証券の時価が取得原価の50%以下に目減りすると、会計上で減損処理を迫られる。仮に楽天の株価が572.5円を下回れば郵政は少なくとも750億円の減損損失の計上を余儀なくされるわけで「増田社長ら首脳陣の顔色は一様に蒼ざめていた」(周辺筋)らしい。
郵政にはトラウマがある。豪州の物流大手、トール・ホールディングスの巨額買収のことだ。2015年5月、6200億円もの巨費を投じて買収したものの、経営の立て直しに失敗。4003億円の減損と674億円の事業売却損の計上を強いられた挙げ句、わずか7億円でファンドに叩き売るハメとなった。
楽天への出資を巡っては、当時の郵政に政府資本が約6割残っていたため、「事実上の国費による楽天救済ではないか」とも指摘されていた。
11月以降、楽天の携帯電話事業で最大の売りだった「0円」プランが名実ともに廃止される。投資家の間では株価下落は「これからが本番」との見方も少なくない。
郵政内部ではすでに戦犯探しが始まっているという。
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