安倍晋三は17年前から統一教会に狙われていた
関係がいつ始まったのか
安倍晋三と統一教会の関係を示す最も古い資料ではないか――そう言って届けられた古い冊子をめくってみると、たしかに「安倍晋三」の名前があった。
〈現在の課題となすべきこと
(1) 第二次五カ年計画(基本計画)においてジェンダーという文言を使用させない。(略)
・安倍晋三官房長官と山谷えり子内閣府政務官でチェックできるように関係省庁、議員に積極的に働きかける〉(38頁)
セミナーのテキストに安倍の名がある
表紙には、「21世紀 世界平和の為の 日本女性指導者セミナー」とある。パワーポイントが印刷されたもので、制作は統一教会のフロント団体・天宙平和連合(UPF)とその前身組織である世界平和超宗教超国家連合(IIFWP)の連名だ。作成時期は記載内容からして2005年11月から翌年2月の間とみられる。
2012年12月の第二次政権発足以降、安倍と旧統一教会が急速に関係を深めたことは、暗殺事件以降よく知られるようになった。
2013年7月の参院選における安倍派の北村経夫への選挙支援にはじまり、2015年8月の文化庁による教団の名称変更の認証、そして暗殺事件の引き金となった昨年9月に開催されたUPFの大規模オンラインサミットでの安倍本人のリモート登壇・ビデオメッセージ上映、そして今年7月の参院選における安倍派の井上義行への選挙支援にいたるまで、安倍派と旧統一教会の関係は明らかに深まって行った。
私は第二次安倍政権以降の安倍と旧統一教会の関係性を“共存共栄関係”と見立て、この9年間にわたり検証してきた。
だが、そもそも安倍と統一教会の関係がいつ始まったのかについてはまだ謎が残されている。祖父岸信介以来の「3代にわたる蜜月」とよく指摘されるが、安倍が第三次小泉改造内閣で官房長官になる頃まで関係は確認されていない。はっきりわかっているのは、2005年10月、官房長官に就任する直前に、UPFの創設記念広島大会に祝電を送っていたという事実だ。
UPFが開催した安倍追悼セレモニー
なぜ安倍の名がそこに?
今回入手した冊子は、安倍から祝電を受け取ったUPFが安倍の官房長官就任直後に作成したものとみられ、たしかに最も初期の関係を示すものと言えた。
冊子の同じページには、次のような記載もある。
〈・第三次小泉内閣において猪口邦子議員が男女共同参画担当大臣になる。
・ジェンダー概念に執着〉
冒頭で紹介した箇所とあわせるとこう読み解くことができる。
「ジェンダー概念に執着する猪口大臣が作成する五カ年計画において、ジェンダーという文言を使用させないため、官房長官の安倍、内閣府政務官の山谷がチェックできるよう関係省庁と議員に積極的に働きかける」
UPFが統一教会の信者や関係者にそう呼びかけていたということだ。
なぜ統一教会がジェンダー(社会的性別)に反対するのか。なぜ安倍と山谷の名前を挙げるのか――当時の社会状況と照らし合わせながら見ていこう。
「男女が均等に政治的、経済的、社会的及び文化的利益を享受することができ、かつ、共に責任を担うべき社会」を目指して作られた男女共同参画社会基本法は、1999年6月に公布・施行された。
これを受け2000年3月以降、全国の自治体で男女共同参画推進条例の制定が進み、同年12月には男女共同参画基本計画が策定される。その間、ジェンダーフリー運動の象徴として浮上したのが「ジェンダー」という言葉だった。
この流れに強く異議を唱えた1人が衆議院議員の山谷えり子(民主党・当時)だった。
2002年4月11日、山谷は衆議院青少年問題に関する特別委員会で文科省委嘱事業における小冊子「未来を育てる基本のき」を提示し、ジェンダーフリー教育・夫婦別姓・多様性について批判を展開、青少年健全育成について質問、男女共同参画社会基本法やジェンダー教育への違和感を表明した。
その後、山谷は保守新党を経て2004年7月、自民党へ入党する。2005年3月4日の参議院予算委員会でも、男女共同参画社会・教育基本法改正、性教育について質問した。
「ジェンダーフリーというどこの言葉でもない、(中略)勝手に日本がつくった、勝手な、定義も分からない言葉を使って独り歩きさせたり、混乱が起きている」
「(男女共同参画基本計画の)次の五か年計画にジェンダーという定義を入れるべきではない」
大々的にやっちゃえ!
この山谷の“活躍”に安倍が呼応する。2005年4月、「自民党 過激な性教育・ジェンダーフリー教育実態調査プロジェクトチーム」を結成し、当時幹事長代理だった安倍自身が座長に納まった(山谷は事務局長)。
結成の翌5月には、党本部8階ホールにおいて、「過激な性教育・ジェンダーフリー教育を考えるシンポジウム」を開催、安倍と山谷の2人はそろってパネリストとして登壇し、男女共同参画基本法やジェンダーを批判した。山谷はこう発言した。
「ジェンダーフリーが間違っているとの国民的なコンセンサスがやっとできた。次には『ジェンダー』がどうなのか、大きなテーマだ。男女共同参画社会基本法そのものについても検討していきたい」
このシンポジウムの責任者として司会を務めていたのが現政調会長の萩生田光一だ。「永田町の時勢に合ったトピックをはぎうだ光一がするどい感性でお伝えします」と銘打った自身の「はぎうだ光一の永田町見聞録」(2005年5月28日)でこう書いている。
〈この問題は私が都議会時代から古賀俊昭先生(日野市)田代博嗣先生(世田谷区)らと共に取り組み警鐘を鳴らし続けてきた事案で、私の都議会予算委員会の質疑が新聞記事に取り上げられたこともありました。しかし当時は国会の自民党が中々問題意識を持ってもらえず、山谷えり子衆議院議員(当時 保守党)のみが危機感を感じて国会で採り上げていただきました〉
〈全都の公立学校の調査をし、六〇〇体を超える不適切なセックス人形等が押収され大きな問題となり、ジェンダーフリー思想のフェミニスト達もしばらくは鳴りを潜めていたのですがここへ来て又教育現場でモゾモゾと動き始めた〉
〈当初は突然責任者に指名され、「どうしよう」と戸惑ったのですが「この際大々的にやっちゃえ!」という無責任な仲間の声に推されホールを借り、九○一号室(党本部でホールに次いで広い部屋)に都や全国から押収したセックス人形やビデオの放映、教材の展示会も併設致しました〉
〈こういったおかしな教育を是正するには、やはり男女共同参画基本法の運用面での問題是正や、公務員給与改革によるダメ教員の排除等、抜本的な改革が必要な事を訴え無事閉会しました〉
萩生田氏
反ジェンダーの仲間たち
安倍、山谷、萩生田ら安倍派の源流ともいうべき3人が主張していたのは、家父長主義的な色合いが強い「伝統的家族観」だ。1997年に設立されていた日本会議もこうした動きに賛同していた。
前出のプロジェクトチームは全国調査を実行に移し同年7月に調査結果を発表。男女共同参画基本計画改定作業中の政府に対し、「『ジェンダー』との文言を削除すべき」とし「ジェンダーフリー」との言葉そのものの使用をやめるだけではなく、「ジェンダー」という言葉に関しても「語の定義が曖昧である」として正式な文書において使用しないよう求めた。
男女共同参画を積極的に進める小泉政権に対するバックラッシュ(反動)ともいえる動きだった。
2005年10月に発足した第三次小泉改造内閣では、安倍が官房長官に就任し次期首相候補として注目を集めたが、そのとき内閣府特命担当大臣(少子化・男女共同参画)に就任したのが元大学教授の猪口邦子だった。男女共同参画会議の議員や専門調査会の委員を歴任してきた猪口は、9月の衆院選で当選したばかりだったが、佐藤ゆかりと片山さつきとともに開いた外国特派員協会での会見で、「私たちがジェンダーバッシングを許さない」と発言、安倍や山谷に対抗する意欲をみせていた。
安倍晋三
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