過去2回の会談後、北は核開発を加速させている
朝鮮半島情勢が大きく局面転換している。一時の「戦争もありうべし」という軍事的危機から、対話・和平への劇的な“変化”である。2月〜3月の平昌冬季オリンピックにおける北朝鮮の微笑攻勢が、4月27日の南北首脳会談へと繋がった。これで、朝鮮半島が当面の危機を脱したことは間違いない。
韓国の文在寅政権は念願の金正恩との首脳会談に狂喜し、政権に“忖度”する韓国のテレビは全局が首脳会談を朝から晩まで「歴史的」と繰り返しながら、興奮して中継した。
だが、今回の「板門店宣言」では、焦眉の課題である北朝鮮の核問題について「完全な非核化を通じ核のない朝鮮半島」という抽象的な「共同目標」を発表したが、「核放棄」など具体的な文言はなく、事態解決は“本番”の米朝首脳会談に持ち越された。また、文政権は南北の敵対中止や緊張緩和、恒久的平和構築などを称えたが、ほとんどは過去の首脳会談のデジャヴュ(既視感)である。
南北首脳会談は今回が3回目だ。板門店に金正恩が登場するというショー的な華々しさ(?)を除けば、過去と比べても新味はなかった。しかし、きたるべき米朝首脳会談は史上初である。トランプという破格的言動の大統領と、同じく破格的パフォーマンスが売りの金正恩との出会いだけに、サプライズはありうる。
ところで、韓国でよく耳にすることわざに「(モチが出る前に)キムチ汁からいただく」というのがある。日本でいう「捕らぬタヌキの皮算用」にあたるが、いいことがまだ実現していないのに早くも楽しんじゃっている、といったような意味である。
というのは、文在寅大統領が音頭をとって南北首脳会談や米朝首脳会談が開催されることになったため、韓国では早くもその“功績”を喜んでノーベル平和賞の話が出ているのだ。熱狂的な文在寅支持者の間で“受賞推進運動”の動きまで出たのだが、これはさすがに大統領官邸が止めさせたようだ。野党など批判派はこういうのを皮肉って「キムチ汁からいただいている」といっている。
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source : 文藝春秋 2018年06月号