態度を豹変させた指導者の正体に迫る
何の実績もないまま人口2500万人の国の指導者に選ばれた金正恩・朝鮮労働党委員長。まだ30代前半だが、部下の粛清や核実験やミサイルの発射を繰り返し、「未熟で粗暴な独裁者」というイメージがすっかり定着していた。
ところが今年に入って、強硬姿勢から一転、平昌五輪を舞台に韓国を取り込みながら巧みな外交を展開した。さらには電撃訪中で中国との関係を改善。4月末の南北首脳会談では、終始笑顔でソフトなイメージを巧みに演出し、「朝鮮半島の完全な非核化」に関する共同宣言に調印した。6月上旬までには、史上初の米朝首脳会談も実現の見込みだ。
愚かな暴君か、戦略家か
34歳にして世界をかき回す姿は、「愚かな暴君」より、「天才的な戦略家」を思わせる。われわれはこの若者を見誤っていたのだろうか。
2017年1月1日、正恩は「新年の辞」を読み上げた。これは、毎年、北朝鮮の指導者が過去1年間を総括し、今後の方針を明らかにするものだ。大言壮語ばかりが並んでいるように見えるが、注意深く読めば、そこに正恩の意図が読みとれる。
ここで正恩は、「わが祖国はいかなる強敵も攻撃できない東方の核強国、軍事強国となった」と自信をのぞかせ、「さまざまな攻撃手段の発射実験、核弾頭爆発実験が成功裏に行われ、ICBM(大陸間弾道ミサイル)の発射実験が最終段階に達した」と述べた。ICBMは、遠く離れた米国を狙うもので、先端に小型化した核弾頭を付ければ、米国本土を攻撃できる。つまり、これは、1月20日に、オバマ政権の「戦略的忍耐」(北朝鮮が非核化の意思を示さないかぎり対話に応じない)を批判していたトランプが大統領に就任する直前に発せられたメッセージだった。今から振り返ると、ここにも正恩なりの「戦略」があったように思えてくる。
正恩は、この予言通り、この年、計15回、20発に及ぶミサイルの発射実験、さらに9月には「水爆」と主張する6回目の核実験をたて続けに実行した。そして11月には、「核武力の完成」を宣言する。
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source : 文藝春秋 2018年06月号