大義も政策もない選挙はもうたくさんだ
9月末の臨時国会冒頭で、安倍晋三首相は消費増税による税収の使途の変更と深刻化する北朝鮮情勢を理由に「国難突破解散」を掲げ、衆議院解散に踏み切りました。今春からの森友・加計学園問題を主要因とする支持率の低迷や、7月の東京都議会選挙での惨敗があったなかでの、野党にとっては「不意打ち」の解散でした。
前回、2014年末の解散も「不意打ち」で、野党は効果的な手を打てずに惨敗したわけですが、今回は違いました。興味深いことに、野党側が「不意打ち」で反撃したのです。東京都知事の小池百合子氏が国政新党「希望の党」を設立し、自らが代表に就任すると発表しました。これによって野党再編の流れが一気に加速、民進党代表(当時)の前原誠司氏は小池氏と会談し、民進党は一切公認候補を出さずに希望の党へ事実上合流するとしました。安倍首相も、この時は一瞬肝を冷やしたことでしょう。しかしながら一部の民進党出身者に「排除の論理」を振りかざしたことで希望の党は失速し、そこで誰も予期せぬ第三の「不意打ち」が枝野幸男氏の手によって引き起こされました。自らが代表となって「立憲民主党」を立ち上げたのです。
前回の解散時とは一味違うこうした動きはそれなりに興味深いものではありましたが、10月22日の投開票の結果は自民党の圧勝です。選挙前とほぼ変わらぬ284議席を獲得し、連立を組む公明党とあわせた議席数も313と3分の2超を保ちました。議席数を見れば、与野党の勢力図にさしたる変化はなく、結局のところこの総選挙とはいったい何だったのか、という気分だけが残りました。
解散権は「伝家の宝刀」でいいのか
解散に打って出る直前の民進党は、迷走した幹事長人事を含めて混乱の中にあり、小池氏のほうも準備不足が透けて見えた。「今解散すれば、それなりの勢力を維持できる」。もし安倍首相がそう考えたのだとしても、理解できなくはありません。ただ、それ以上の必然性、つまり約600億円という血税と3週間に及ぶ政治的空白と引き換えてもなお総選挙を実行すべき意義がどこにあったのか、理解し難かった。その不信感は世論調査にも表れています。産経・FNN合同世論調査(10月中旬実施)では、衆院解散を「評価しない」と回答した人は69%にのぼりました。また、自民圧勝の結果とは裏腹に、同調査では安倍内閣への「不支持」回答が46.3%と、「支持」の42.5%を上回っていました。
ここでひとつ考察しておくべきなのは、首相の「解散権」についてです。唯一首相だけが自由に行使できる「伝家の宝刀」と言われますが、それで本当にいいのかどうか。衆議院議員の任期は本来であれば4年間ある。しかし安倍首相は12年末に政権の座に返り咲いてからの4年10カ月ですでに二度、その宝刀を抜きました。ここに潜む問題点について、私は以前にも、「文藝春秋」(15年1月号)で指摘しましたが、今般、その思いをさらに強くしました。
そもそも、日本は総じて選挙の回数が多すぎます。4年間いつでも「常在戦場」で任期満了はほぼありえない衆院選挙、3年ごとに半数を改選する参院選挙、それに加えて自民党なら3年に一度の与党総裁選、4年に一度の統一地方選挙――。毎年のように何かしらの選挙が実施されるのが実情です。
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source : 文藝春秋 2017年12月号