80年代、特派員としてワシントンに駐在した。明けても暮れても、日米経済摩擦を取材、報道した。家電、自動車、工作機械、精密機械、スパコン、タバコ、牛肉、オレンジ、コメをめぐって両国は激しく応酬した。この間、1985年のプラザ合意があった。そこから1987年のルーブル合意までの1年半ほどの間に、ドルの対円・対ドイツマルク相場は、50%も切り下がった。
それでも対日赤字は減らなかった。
日米半導体協定交渉が1985年に始まった。最終的に(91年改定)、日本の半導体市場の20%を米製品に渡す約束をした。米製品を買わされた日本企業の中にはそれを東京湾に捨てたところもあった。セクター別数量目標ほど、筋の悪い取り決めはない。
日米構造協議が1989年に始まった。米側は日本の公共投資、系列、流通、土地利用のあり方など200項目を超える要求を突きつけた。しかし、日本の構造障壁に風穴を開けたのは、その後のグローバル化だった。
先月、始まった日米経済対話では、財政金融政策、インフラ投資やエネルギー分野などの経済協力、貿易・投資ルール、の3つの柱に沿って「対話」を進めていくと謳っている。
最大の焦点は、貿易問題である。米側は対日貿易赤字の削減に向けて、二国間の貿易交渉を主要議題に据えようとしている。一方、日本側はアジアの貿易や投資のルールづくりの議論を展開したい。
日米関係は30年前の振り出し地点に引き戻されようとしているのかと何かむなしい気持ちにとらわれる。貿易赤字は、その国の所得より消費が多いか、貯蓄より投資が多いか、で決まる。世界中から部品を調達して製造する時代、二国間貿易の数量目標を設定してもほとんど意味はない。
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source : 文藝春秋 2017年06月号