天皇は2010年の参与会議で初めてご意思を伝えられた。皇后をはじめ出席者はみな反対したが、天皇のお気持ちは揺るがなかった。6年間に及んだ議論はどのように推移していったのか──
天皇のお住まいである御所には、玄関から入って長い廊下を進んだ先に応接間がある。その奥は天皇皇后の私室部分となるため外部の人間は入ることはできない。
2010年7月22日、午後7時。この応接間では、宮内庁長官の羽毛田信吾と侍従長の川島裕とともに3名の宮内庁参与が起立して、天皇皇后のお越しを待っていた。皇室の重要事項について話し合うために定期的に行われる“参与会議”がこれからはじまるのだ。
部屋の中央に置かれた長テーブルの上には、話し合いをしながら食事ができるよう、人数分の弁当が並べられていた。それは、いつもの参与会議の光景だった。
宮内庁参与は、宮内庁の職員ではなく、あくまで「天皇の私的な相談役」という立場だ。3年ごとに更新され、当時のメンバーは元宮内庁長官の湯浅利夫、元外務事務次官の栗山尚一(たかかず)、東大名誉教授の三谷太一郎。現在は元検事総長の原田明夫、元警察庁長官の國松孝次(たかじ)らが務める。
天皇皇后が応接間に姿を見せ、着席されると、いつものように会議が始まった。
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source : 文藝春秋 2016年10月号