御所のほとんどの部屋は庭や中庭に面していて、設計した故・内井昭蔵氏は「全体の印象は、明るさ、新鮮さを感じられるようにして、日本建築の精神と伝統を反映しながら、現代の生活空間の中の日本の美の独自性を求めた意匠としている」と書き残している。
平成5年の春に完成した御所は当初、吹上新御所と呼ばれ、皇居西側の半蔵門に近い位置にある。両陛下はその年の12月に引っ越して来られたから、すでに22年間はお暮しになっていることになる。
御所は、上空から見ると雁行型で、一部が2階建て。昭和天皇が住んでいた吹上御所が主にプライベート空間だけであったのに対して、現在の御所は外国からの来賓などをお迎えできる接遇部分を備えている点が特徴だ。この夏も、パラオ大統領とのご昼餐、新旧外務事務次官夫妻とのご夕餐があった。
私室部分は、両陛下の食堂や寝室、書斎、研究室、着替え室、理髪室、医療室など17室があり、2階に天皇の「ご身位に伴う部屋」として剣璽の間、執務室の2室がある。側近が控える事務棟には32室あって、各棟が廊下で通じている。地下には巨大な倉庫があり、各国からの贈り物や思い出の品々が所狭しと積まれているという。
「黒田清子さんがご結婚の際は、地下に所蔵されていた持ち物を整理するのに何カ月もかかったそうです」(宮内庁関係者)
ニュース映像や写真で見るだけでは、公的な行事がおこなわれる宮殿と、お住まいである御所の違いはわかりにくい。新年の一般参賀でお出ましになるベランダの奥にお住まいがあると勘違いされることがあるくらいだ。
天皇がふだん執務されているのは、宮内庁本庁舎裏手にある宮殿。国事行為に関する署名捺印をされるのは「表御座所」。新年祝賀の儀や信任状捧呈式、勲章親授式などは、最も格式が高い正殿「松の間」でとり行われる。宮中晩餐会などが開かれるのは「豊明殿」。新年一般参賀でお出ましになるのは「長和殿」のベランダで、その奥にレセプションや夜会などが開かれる「春秋の間」がある。
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source : 文藝春秋 2016年10月号