ドイツ帝国に突きつけられたノーはグローバリゼーション終焉のサインだ
私は、2015年に出版した自著『「ドイツ帝国」が世界を破滅させる』(文春新書)の中で、イギリスのEU離脱を予言していたそうです。
「いつかイギリスはEUから去ると思いますか」という質問に対して、「もちろん!」と答えていたのですが、私自身すっかり忘れていました。この6月にイギリスで行われた国民投票で離脱派が勝利したことを受け、改めて担当編集者から伝えられて思い出しました。
これまで私は、ソビエト連邦の崩壊やユーロの瓦解、あるいはアラブの春といった歴史的な帰結に関して予言的な発言をしてきましたが、それらは歴史人口学者として、客観的指標をもとに理性的な判断をした結論を述べたものです。その点、イギリスに関する「予言」は、やや種類を異にすると言っていいでしょう。というのも、イギリスについて語るとき、私はより本能的というか、直観的な判断を述べるからです。
正直に言っておきますが、私はイギリスに関して自分が完全に客観的になれるとは思えません。私の父方の祖母はイギリス人で、父は仏英のバイリンガルでした。私がケンブリッジ大学で研究者生活を送ったのと同じように、私の長男はケンブリッジ大学に学びました。しかも彼はそこにとどまり、イギリス国籍をも取りました。ですから、私にはイギリス人の2人の孫がいます。なによりも、私はフランソワ・オランド大統領よりも英国を詳しく知り、スコットランド訛りのアクセントを聞き分けられるフランス人として誇りを持っているのです。
以前にも私は、イギリスについて直観的な予言をしたことがあります。サッチャー政権時代に、アルゼンチンがフォークランド諸島を侵攻したときのことです。当時、フランスでは「あんな僻地にある小さな島をめぐって、イギリスはまったく動かないだろう」という見方が大勢を占めていました。しかし私は、「いや、イギリスは必ず行動を起こすよ」と言いました。国家の主権や独立といった事象に触れるときに英国人がどう振る舞うかを考え、そう直観したのです。その後、“鉄の女”マーガレット・サッチャー首相が、アルゼンチンに対して軍事攻撃に踏み切ったことは周知の通りです。
今回、EUからの離脱(Brexit=ブレグジット)を選択したイギリス人の判断に私は大いに満足しています。ただ、その国民投票に先立つ数週間は、彼らが離脱を選ぶことを希望していたとはいえ、まったく確信は持てませんでした。1つだけ言えるのは、イギリス人は私たちフランス人と違って賢明な判断を下したということです(笑)。
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source : 文藝春秋 2016年09月号